「いいね、ここに隠れているんだ」
『でもっ!おじさんは!?』
「大丈夫。大丈夫だよ。外にいる"奴ら"を倒したら戻ってくる。
 それまでエリーは息をひそめているんだ。
 何が聞こえても、何を感じても静かにしていなさい。
 ……いいね?」
『…っ(頷く)』
「良い子だ。さぁ、箱に入って。扉を閉めるから」
『気を付けて…』
「あぁ。」


ホストファミリーの彼はそう言うと
私に銃や食料や医療品が入ったバックを渡し
大きな箱に私を隠すと車の扉を閉めた。

銃声とおじさんの叫び声が聞こえる。
きっと車から"奴ら"を引き離そうとしてくれている…
おじさんが最後にかけてくれた毛布が暖かい。
もう遠くまで行ってしまったのだろうか…
声は聞こえず、銃声だけがかすかに聞こえる。
どうか…生き延びて……



それからどれほど時間が経っただろう…
気が付けば私は寝てしまっていたらしい。
なんだか辺りが騒がしい…
目を開けると、目の前にテントが見えた。
どうやらここでキャンプをしているらしい


「目が覚めた?」
『……ここは?』
「キャンプだ。…名前を聞いても?」
『…エリーよ。あなたは?』
「グレン。グレン・リーだ。
 エリーと同じアジア系だよ」
『……出身を当てても?』
「もちろん」
『……韓国。そうでしょ?』
「正解だ!どうして分かった?」
『韓国ドラマや音楽が好きなの。
 好きだった俳優さんに似てる…』
「そっか。エリーは?どこ出身?」
『日本よ』
「韓国とは近いな」
『ねぇ、ここに連れてこられたのは私だけ?
 近くに男の人がいなかった?』
「残念だけど、近くに生存者はいなかったよ」
『そう……』


思わず泣きだした私の横にグレンは座り
そっと肩を抱いて慰めてくれる。
涙を拭おうとして気付いた…
右手に手錠がかけられていて動かせない。
思わず膝に顔をうずめた。


「家族だったの?」
『ホストファミリーなの。
 他人の私を暖かく迎え入れてくれて助けてくれた…
 とても心の優しい、素晴らしい人だったわ』
「そう…辛かったね…」
『えぇ…』
「君の目が覚めた事をみんなに伝えてくるよ」
『待って、もう少しだけ…側にいてくれない…?』
「……分かった。」


それから少しの間、グレンは隣にいてくれた。
途中、老人が私が目覚めた事に気付いて近付いてきたが
グレンから訳を聞くと、そっと肩を叩いて黙っていてくれた。
きっとここにいる人たちもみんな良い人なんだろう…


「落ち着いた?」
『えぇ、ありがとう。もう大丈夫』
「じゃあみんなに話してくるよ」
『うん…』


グレンは仲間の所に行き、事情を伝えてくれているようだ。
保安官の格好をした男の人とがたいの良い男性とグレンが
こちらに近づいてくる。
……少し怖い。


「エリー、リックとシェーンだ。
 リックは君と同じ新人だよ。二人とも保安官だ」
「はじめまして。リック・グライムズだ
 君も大変だっただろう…手錠をかけてすまない。
 今から外させてもらうよ。触ってもいいかい?」
『えぇ、手錠のことは気にしてないわ。
 ……ありがとう』
「シェーン・ウォルシュだ。
 確認だが、君は噛まれたり引っかかれたりしていないな?」
『…(頷く)』
「よし……」
「これ、君のかばんだ」
『ありがとう、グレン』
「エリー。これから先、一人で生き抜くのは大変だ。
 危険でいっぱいだし、女の子一人では厳しい世界だろう…
 もし良ければここにいてみんなで助け合わないか?」
『……いいの?』
「もちろんだ」


目線を合わせて話してくれるリック、
そしてグレン、シェーンを見る。


『……お願いします』
「よし。じゃあみんなに紹介しよう。」


リックに連れられてキャンプのみんなに挨拶をする。
全員の名前は覚えられなかったけど、少しずつ覚えて行こう。
ここが私の新しい居場所…
………日本にいる家族や友達は無事だろうか…
確認する方法がないのがもどかしい。


「リック。まだ問題は全て解決していないぞ
 メルルのことをダリルに話す事が残ってる。」
「あぁ……そうだな…」
「俺が話す。俺がカギを落としたんだ…」
「その時は一緒に話そう」
「あぁ…」


不穏な空気が流れる。
メルル?ダリル?だれのことだろう?


『グレン。メルルとダリルって…?』
「はぁ…二人は兄弟なんだ。メルルは街に一緒に行ってた。
 でも凶暴で手がつけられなくて…リックが手錠で屋上に…
 ウォーカーに襲われて逃げようとした時に
 Tドッグがメルルの手錠を外そうとしたけど鍵を落として
 それで…メルルはそのまま屋上に……」
『……生きたまま…?』
「あぁ…」
『それを兄弟のダリルに伝えるの…?』
「あぁ。ダリルはメルルの弟だ。
 戻って来てメルルがいなればすぐ気付く」
『そう……』


グレンはそう言うと自分のテントに戻って行った。
そしてリックに今日はキャンピングカーで寝るように言われ
みんなとご飯を食べて眠りについた。





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