novel | ナノ
きらきらひかるそれはお星さまのようでもあったし、或いは太陽のひかりのようでもあった。どのみちそれを掴むにはぼくのてのひらは小さすぎて、伸ばした腕は短すぎて、所詮紛い物だったのだとわかったときに、ぼくの足元はがらがらと崩れ落ちた。


きらきらひかる


「昔、神様は僕たちを追放したんだ」
ゆらり、冷気を孕んだ夜風に煙草の煙が吹かされて消えていった。大人になった俺たちは当たり前のように酒を飲んで、当たり前のように煙草を吸って、車を運転した。子供の頃は煙たがっていた煙を肺のなかにたっぷりと吸い込んだ俺に、アフロディは咎めるような視線を一瞬向けてすぐに瞳を伏せた。綺麗な緋色のそれは今も濁っていない。俺とは違って、大人になっても酒を呑むこともも煙草も吸うことも知らないアフロディの肺や肝臓は、幼かった頃のまま、綺麗なのだろう。そう思うと、なんだかとても俺が汚い存在に思えるから、俺はどうもこいつのことを好けない。あの頃も好きだったかと問われれば、どちらかといえば嫉妬の対象だったような気もする。それでも、十年たった今もこうしてアフロディの傍で過ごすことが多いのは、一重にこいつを放っておけないからだった。欄干の近くまで歩み寄り月の光に御髪を煌めかせ、月にでも帰ってしまいそうなその淡い存在から目を離せないでいる。
「だからもう僕は飛べない」
「元々お前は飛んでなんかいねえさ」
悲観的な視線で夜景を見下ろすアフロディの瞳がゆっくりとこちらに向けられる。ぽろぽろと零れだす大粒の涙はまるで作り物のようで、ちっとも心なんて動かされない。ビー玉みたいだった。弾いてやりたくて指先を伸ばして拭えば、俺の指が湿るばかりで何の意味もなかった。
「神様なんて、いなかったんだ」
今も、昔も。



きらきらひかるそれはお星さまのようでもあったし、或いは太陽のひかりのようでもあった。どのみちそれを掴むにはぼくのてのひらは小さすぎて、伸ばした腕は短すぎて、所詮紛い物だったのだとわかったときに、ぼくの足元はがらがらと崩れ落ちた。ただ、崩れ落ちた先に待っていたのはなんてことない、二つの腕で。ぼくをしっかりと抱き留めるそれは煙草の匂いをしていた。