24 | ナノ

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生きていた。



生きていた。
生きていた。
彼は確かに生きていた。
最後の力を振り絞るように僕の指を握り、か細い声で縋っていた。
(死にたくない)と
(死にたくない)と
ぼろぼろと涙を流しながら。
ぽたぽたと血を零しながら。
涙で膜の張った色素の薄い茶色の瞳は遥か遠い記憶の中の誰かを思い起こさせた。
口端から伝う血の色で真っ赤に染まった唇は僕が取り戻すことの出来ない生命を感じさせた。
それはあまりにも綺麗で、それでいてどこか癪に触って、(死にたくない)と、そう泣きじゃくる彼を救いたいのか、それとも殺してしまいたいのか、僕にはわからなかった。わかろうともしなかった。そもそも僕にはそんなことを考える機能なんてあるのだろうか。いま、こうして、感じていること、思っていることは、はたして本当に僕のものなのだろうか。僕には心臓もなければ脳もない。ただひたすらに木の触感がこだまするだけだ。ああ、ああ、彼は確かに生きている。それに比べて、生まれてすらいない僕の、なんて醜いことか。




「さかがみくん」





君の綺麗な生命を貰えば、僕も美しく生まれることができるだろうか。