18
――しばらく慶次さんと恋の話に興じながら庭先で和んでいると、私のいる部屋までやって来た佐助さんに眉を顰められた。
そして――迷わず慶次さんの方を冷たい視線で睨んでいる。
それに気づいた慶次さんは両手をあげながら弁解し始めた。
「誤解だって、忍びの兄さん!俺はただ恋っていうのが何か分からないって名前がいうんもんだから、教えてただけだって!」
「へぇ…恋を教えるねぇ。そんなに近づいて教える必要あんの?」
佐助さんに指摘されて今の状態を確認してみると、慶次さんと私は縁側に隣同士に座っているだけだ。
…何が近いっていうんだろう。
思わず首を傾げてしまう。
というか近いのは佐助さんの方じゃないか。
同じように縁側に座った彼は私を背後から抱き込むように抱えているし、正直こっちの方が近いと思う。
私と同じことを思ったのか、慶次さんは反論を始めた。
「忍びの兄さんの方が近いんじゃないかい?そんなところ幸村に見られでもしたら、大変なことになっちまうよ。」
「はぁ…真田の旦那ね。…いい加減旦那にはこのくらいこと、慣れてもらわないとこっちが困るっていうか。主の世継ぎがいないんじゃ、俺達真田忍隊の食い扶持もままならないっての。」
「…佐助さん、話がわき道にそれてる気がします。」
幸村さんの名前が引き合いに出されて、私を抱きかかえたままの姿勢で呆れた顔で愚痴りながら溜息をつく佐助さんに私は口を挟んだ。
…横で「余計なこと言うなって。」と慶次さんに怒られた。
あ…そういえば慶次さんの危機だったんだっけ。
すっかり忘れていた。
私の言葉で本題に佐助さんは戻ると、私を担ぎ上げ、慶次さんから距離を取った。
その瞬間、天井裏から真田の忍隊の人達が降りてくる。
…多分、あれは才蔵さんと鎌之介さんだ。
たまに佐助さんがいない間、私の部屋に来てくれる人達だから、おかげで女中さんの名前よりも忍びの人達の名前の方が知っている数は多い気がする。
佐助さんはその2人に視線を配ると命令するような口調で言った。
「旦那の客人だ。丁重にもてなしてやんな。こんななりでも一応同盟国のもんだから、殺すなよ。」
――2人は声もなく頷くと苦無を構え、慶次さんと対峙した。
私は佐助さんに抱えられながらも、慶次さんの悲鳴を背後で聞いたのだった。