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――前田家と同盟を結んだ翌日から、私の特訓は始まった。

…特訓といっても、あくまで護身用の苦無を使いこなすためのものである。

あとは無駄に戦中に力を使わないようにするため。

有限である以上、狙いの人物以外は幼子化させないようにするのである。

…幼稚舎の人口があまり増えない気がするが、致し方ない。



幼稚舎の授業が終わると、佐助さんの迎えがあって甲斐のお屋敷の方に帰っていく。

いつも寝泊まりしているところまで戻ってくると、文机に入れておいた護身用の苦無を取り出した。


「あー…名前ちゃん。それじゃ意味ないでしょうが。何のための護身用だと思ってんの。」

「え、だってあんまり刃物を持ち歩く習慣ないんですもん。一応、佐助さんからの貰い物ですし、大切に保管はしておかないと。」

「貰い物ってねぇ……せめてこっちを大切にしてちょうだい。それはあくまでアンタを守るためのもんなんだからさ。」


 そう言って佐助さんにもらったのは櫛だった。

…なんだか高そうな櫛だと思ったものの、素直にお礼を言ってから文机の中にしまった。

苦無を手に持ち、いつも戦に出るような佐助さんとお揃いのポンチョ(未だに何故お揃いなのかが謎だ。…可愛いから、着るけど。)を着てから縁側まで出た。

私の準備が終わると、佐助さんは私を抱え、移動する。

暫くすると、「武田道場」という看板が見える。

そこには幸村さんもいた。

その入り口に下ろされると、佐助さんは今回の特訓内容を教えてくれた。


「今日はうちの忍びと風魔を加えた忍び集団と鬼ごっこをやってもらおうと思うんだよね。あ、勿論そのままだと名前ちゃんに不利だから、旦那が護衛役を務めるってさ。早い話、名前ちゃんと真田の旦那がこの道場の中枢にいる御館様に辿り着けたら勝ち。反対に、辿り着く前に名前ちゃんが天狐仮面に捕まったら負けってこと。ただし、名前ちゃんの力は御館様か風魔、あるいは天狐仮面を除いて他の奴等に使ったら駄目だ。どう?今回の特訓内容は分かった?」


 佐助さんの説明を頭に入れながら、考える。

…あれ?天狐仮面ってそういえば誰だろう。

私は片手を挙げ、佐助さんに質問した。


「はい、天狐仮面って誰ですか?」

「佐助の友人だ。…名前は知らぬのか?」

「あー…ま、旦那の言った通りだけどさ。とりあえず見たら分かると思うよ、多分。天狐仮面には名前ちゃんのことは伝えてあるし、致命傷となる傷をつけなけりゃ、どんな手段で名前ちゃんを捕まえても構わないって言ってあるから。だから名前ちゃん、本気で逃げてちょうだい。」


…そう言う佐助さんの表情はどこか不穏だ。

天狐仮面の話をしているにも拘らず、まるで自分が追いかける方のような雰囲気を出している。

…あの眼は完全に捕食者の目だ。

私はその目つきを観察しながら、思わず生唾をごくりと飲みこんだ。



――斯くして恐怖の鬼ごっこ(in 武田道場)は始まった。



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bkm
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