20
――井戸を経由して、腕を引っ張られて連れて行かれたのは忍び屋敷のある一室だった。
手早く佐助さんは薬草を選び取ると、あっという間に薬を作ってしまう。
その間に私の火傷した手は濡れた手拭でしっかり覆われていた。
そのおかげか大分痛みは引いてきている。
佐助さんは出来上がった薬を片手に私の手を取ると、手拭を取り去った。
「ん…酷い事にはなってないようだね。良かった。この薬塗っちまうよ。少し沁みると思うけど、我慢しな。」
「…そういえば佐助さん、怪我には敏感ですよね。わりかし忍の人にはよくありがちなんですか。」
「いや?戦や任務の時には大小拘らず沢山の傷を負うこともあるもんだけど、そんなん構ってちゃ仕事にならないでしょうが。命に別状なかったり、任務に差障りのない怪我だったら、仲間の忍が負ったとしてもほっとくね。忍の世界はそんな甘くねぇし。」
何となく私が怪我を負うたびに毎回、焦りを見せる佐助さんに普段から疑問に思っていたことをぶつけてみたところ、事も無げに言い切られた。
…いや、佐助さんの言動に矛盾が感じられるんですけど。
手早く処置を済ませた佐助さんは最後に包帯のようなもので私の手を巻いた。
「よし、これで完了。しばらくは湯浴みも介助が必要になるから、注意しなよ。」
「…いや、少し赤くなっただけですし、これくらい……。」
「何言ってんの。火傷は後になったら腫れてくることだってあるんだぜ。湯浴みなんてしてお湯に触れでもしたら…あ、俺様が手伝おうか?」
「結構です!」
何か含みのある笑みでそう申し出る彼を私は勢いよく断りの返事を入れた。
とその時――天井裏から才蔵さんが降ってきた。
「手当は終わったのか?六郎と甚八が待っている。」
「才蔵、呼びにでも来たの?」
「ああ、ちょうど任務が終わってこちらによった頃だしな。そのついでだ。」]
「海野さんと根津さん、待ってるんですね。じゃあ私、行きます。」
才蔵さんがタイミングよく降りてきたおかげで私はその場を離れる機会を得た。
だってこのままここにいたら、湯浴みの介助を佐助さんがやる方向に話が持っていかれそうだからだ。
そそくさと襖を開け、廊下へと出て行った。
「長、あまりアイツをからかい過ぎるな。しかもこんな貴重な薬草の方を使うとは…少し過保護が過ぎるんじゃないか?」
「はぁ、過保護なのは才蔵の方だろ。俺様のいない間、幼稚舎の方に名前ちゃんをよく送り迎えしてたって小助から聞いてんだけど。」
「アイツの足では四半刻は甲斐の屋敷から幼稚舎までかかる。身の安全のため、致し方なかっただけだ。」
「よく言うよ。いつの間に名前ちゃんに顔と名前を覚えられちまってるしさ。名前ちゃんの警護をしろとは言ったけど、そこまでしろと言った覚えはないんだけど。」
「まあまあ、長。名前はなんせ俺達真田忍隊の癒しなんだからさ、大目に見てやってくれよ。それにしばらく名前は忍隊預かりになってよそに嫁に行くこともないんだろ。いや、下手な相手が名前の相手に選ばれちまったら俺達、危うくそいつの屋敷に闇討ちに行っちまいそうだしさ。」
「あ、鎌之介。その事なんだけど、俺様が貰い受けたから。」
「「は!?」」