――朝餉が終わると、佐助さんに連れられて忍びの草屋敷に向かった。
今日から忍び屋敷の女中として修業を始めるためだ。
そのため幼稚舎に中々、通えないのが寂しい。
…いいもん、癒しの場所として神聖化するから。
幼子って最高だな。
…と妄想に浸っていたら、前を歩いていた佐助さんに変な顔をされた。
「え、もしかして思考読んだんですか!?」
「いや、アンタの考えそうなことは大体分かるから。というか顔に出てたし。」
佐助さんは深い溜息をつきながら、忍びの草屋敷に入っていった。
…っていうか朝の悪行に対して、深い溜息をつきたいのはこっちだっての。
案内されるがままついていくと、どこか見たことのあるメンバーと小太郎君(幼子化バージョン)が待っていた。
…もしかして真田忍隊の人達?
そう佐助さんに聞くと、頷かれた。
「名前ちゃんは今日から忍隊預かりの女中の修業をするから。色々教えてやってくれる?ただし…くれぐれも最初の決まりを忘れるなよ。」
佐助さんがそう言うと、忍隊の皆さんは「御意。」と声を揃えて頷いた。
それに対して小太郎君は何も反応を示すことなく、佐助さんと何やら視線で会話を始める。
…読唇術を使わないってことは私に知られたくないことなのだろうか。
しばらくすると、会話が終わったのだろうか小太郎君は合点がいったように頷いた。
心なしか雰囲気が柔らかい。
…一体、本当に何の話をしたんだろう。
気になったものの聞けずにいると、佐助さんがこれからの修業について話し始めた。
「まず名前ちゃんの女中修行のことだけど、それ以前にここでの厨の使い方や湯浴みの準備の仕方自体分からないんだよね?」
「…はい、その通りです。何しろ私の世界とは全然違ってますから。火を熾したことすらありませんし。」
「…おいおい、アンタはどこかの姫様かい……。そんなんで嫁に行く時どうするんだい。」
私の言葉に近くにいた鎌之介さんは頭を抱えた。
他の忍びの皆さんも深い溜息をついているように思える。
その空気の中、居心地悪く縮こまっていると、佐助さんに頭を撫でられた。
小太郎君も幼いながらも愚痴を零した鎌之介さんを鋭い目つきで睨んでいた。
そんな雰囲気の中、佐助さんは話を続ける。
「じゃあ今日はお茶くらい1人で淹れられるようになろっか。鎌之介、そんな大げさに溜息つかなくても名前ちゃんはどこにも嫁には出さないから安心しな。」
――佐助さんの言葉に忍びの皆さんの表情はどことなく安心したような表情に変化した。
…何気に失礼だな、この人達。
そう思って訝しげな目つきで睨んでいると、小太郎君が「おそらく名前が思っていることとは違う。」と伝えてきたが、私には意味が分からなかった。
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bkm