19


――私のこれからが決まった例の日から数日が経った。

相変わらず私の寝坊癖は変わらず、意識が戻って来てからも布団の中で温もりを味わう日々が続いている。

ただ今日は恐ろしいことが起こった。

妙に息苦しく感じたので意識を浮上させてみると、咥内にぬるりとしたものが入っているのが分かった。

無理やりそれから口を離し、目を覚ましていると、満面の笑みの佐助さんが目に入った。

…もしかしてキスされた?

それを自覚した途端、寝床から私は飛び出した。


「な、何をしてるんですか!?っていうか何でキスしてるんですか!?」

「…名前ちゃんの世界では口吸いのことを「きす」っていうの?へぇ…初めて知ったね。」

「ってなに変な感心をしてるんですか!?毎回、毎回寝床に勝手に入ってこないでって言ってるのに!」

「んふー…名前ちゃんのいう「付き合い」って奴をしてるんだし、いい加減慣れてもらわないと困っちまうよ。」


…口喧嘩じゃ勝てないってことくらい知っていた。

私は胡散臭い笑みを浮かべる佐助さんを横目で見ながら手早く着替えを済ませると、廊下を出て早足で朝餉の置いてある間へ急いだ。

…何となくこの時間だったら間に合うはず。

襖を開けると、幸村さんがちょうど朝餉を食べているところが目に入った。

隣に座り、用意してあった膳を開けた。

隣の幸村さんに挨拶を済ませると、幸村さんが驚いた表情でこちらを見た。


「今朝は早いな。佐助と喧嘩でもしたのか?」

「いつも通りですよ、幸村さん。それより佐助さんのセクハラを何とかしてください。」

「…「せくはら」とは?」

「破廉恥な事ですよ、幸村さん。」

「御館様が夫婦間では破廉恥な事は何もないとこの間、仰られていたが。」


 私は幸村さんの顔を呆然とした表情で見つめた。

…あの幸村さんの破廉恥判定がない…だと!?

思わず箸を取り落しそうになると、いつの間にかやって来た佐助さんにその箸を救い上げた。


「名前ちゃん、行儀悪いよ。ほら、しっかり持ちな。…なんかその持ち方違うよね?」

「…っていつの間に来たんですか、佐助さん。」

「そんなことはどうでもいいでしょ。それよりも名前ちゃん、ちゃんとした箸の持ち方、もしかして知らないの?」


 いつの間にかの佐助さんは気づいたら私の箸を持っている方の手を掴んで、正しい持ち方とやらに直そうとしていた。

…なんかその姿、お母さんに似ている。

というか実の母に諦められた箸の持ち方を根気強く佐助さんは直そうとしているし…なんか母力が高いな、佐助さん。

朝餉の時間の間に何とか佐助さんに合格を貰えるような箸の持ち方になると、やり遂げたような面持ちで頭を撫でられた。

…え、これ保護者らしくない?

傍から見ていた幸村さんもそう思ったのか、小さな声で呟いた。


「…まるで佐助が子育てをしているようだな。」

「は?…何言ってんの、旦那。」


――悲しいかな、本人は気づいていないようだった。



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bkm
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