――可愛い幼子に導かれてやってきたのはだだっ広い一間でした。

滅多にしない正座をして人が来るのを待つ。

…人っていっても誰を待っているかは知らないんだけど。

その間、護衛のような人達が警戒するようにこちらに視線を向けていた。

…無理もない。

こちらの世界にとっては変な格好をしている怪しい女が今からこの国の偉い人と会おうっていうんだから。

いつの間にかこちらまで案内していた幼子はいなくなっているし、1人監視されたまま放置されている。

そろそろ足に限界がきて、少し崩して欠伸を噛みしめた時――襖が開いた。


「…待ちくたびれてもうたか。何せすぐには信じられぬ話じゃったからのう。些か理解するのに時間がかかった。」

「御館様…某はまだあの幼子が佐助だと信じることが出来ませぬ。」

「幸村よ、あやつは正真正銘猿飛佐助じゃ。あやつしか知りえぬことをワシの前で語ってみせたからのう。」


…赤い集団だ。

私は彼らの格好を見た途端、そう思った。

赤いと3倍強いとかそういう世界なのかな。

…もう既にここに通されてからしばらく経っていたためにそんな下らない事まで思いつくようになっていた。

私の視線に気づいた2人はこちらを見やった。

赤い集団のうちの1人であるやけに威厳のあるおじさんが私に話を促してくる。


「…確か苗字名前といったな。佐助から話は聞いておる。おぬしがこの武田に仇なすものではないという確固たる証が欲しいのじゃ。おぬしの身の上全てをワシに教えてはもらえぬか。」

「…多分信じてもらえないと思います。それでもいいですか。」

「うむ、構わぬ。話してみよ。」


――どうやら武田の一番偉い人らしい人に自分の知っていること全てを話した。

その間に隣に座っている私と同じ年頃のジャニーズ系の赤い人は「何と!」とか大きなリアクションをしてくれる。

…話し甲斐があるじゃないか。

気づいたら、赤いジャニーズ系もとい、真田さんに請われて元の世界のお菓子について話していた。


「えっと生まれた日にはケーキという甘いものを食べる行事があってですね……。」

「何と!某も口にしてみたいものでござるな。」

「…幸村よ、すっかり名前の話に夢中だのう。」

「む!某としたことが…御館様の前であるというのに……。」

「よいよい、甘味といえばそろそろ出来上がる頃合いかの、佐助よ。」

「はいはい、まったくたいしょうもひとづかいあらいねぇ…ふつう、こんなすがたになっちまったしのびをはたらかせるもんかねぇ。」

「幼子の姿になろうとも佐助は佐助よ。佐助、働けぃ。」


 猿飛さんは御館様(って真田さんが言っていたから、そう呼ぶことにしよう。)の言葉に肩を竦めた。

…小さいその姿でそういう仕草をされるとどことなく擦れている子供っていう感じだ。

思わず頭をぐりぐり可愛がりたくなると、欲望の赴くまま手を伸ばした。

危機感はちゃんとあるようでその手から逃れるような感じで猿飛さんは飛びのいた。

その表情はどことなく嫌そうな表情だ。


「ちょっとやめてくんない?そうやってわらべあつかいするの。」

「あ、すみません、つい。」

「ついじゃないっての!ほら、だんな。だんごだよ。」

「うむ…こ、これはいつもの佐助の作る団子の味ではないか!とすると…佐助であるというのは真だな!」

「…だんごのあじでだんなにしんじられるなんて…なんだかおれさま、なきたくなっちまった。」

「…名前さんの腕はいつでも空いていますよ。」

「ぜったいつかわないから。」


…精一杯拒否されて私は項垂れた。その様子を愉快そうに御館様は眺めていた――



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