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――御館様のところに報告がいき、私達が大広間に通された頃、元親ちゃんは私のせいで大分疲弊していた。
着物を着せる時に大分暴れられたので所々ボロボロだ。
その姿を見て、御館様は愉快そうに笑った。
「たけだのおっさん、こうなることをしってやがったな!?」
「ほう…どうだったかのう。」
「ったく…名前のちからがこういうたぐいのちからってわかってたら、けんかなんかふっかけねぇのによ。アンタもしゅみわるいぜ。」
「…して、西国の鬼よ、同盟の方は如何とする?」
「むすぶにきまってんだろ!やろうどものまえでこんなすがた、もういちどみせらんねぇよ。」
小さな可愛い姿で項垂れる元親ちゃんを微笑ましく思いながら見つめる。
そんな私に御館様が頼んできた。
「おぬしのおかげで西国の鬼も斯様に説得できたようじゃ。感謝する。…物は相談なんじゃがのう。あやつを元に戻してやってはくれぬかのう。」
「あー…今ですか。」
「…って名前ちゃん、露骨に残念そうな顔をしないの。」
御館様のお願いに低いトーンの声色で応えてみせた私に対し、佐助さんが思わずツッコミを入れた。
…仕方ないじゃないか。
こんなに可愛いのがごっつい男の人に戻るのは正直嫌だもん。
可愛い姿でいようよ、元親ちゃん。
私が渋っていると、元親ちゃんは焦ったように促してきた。
「たのむ!もとにもどしてくれ!もどしてくれたら、このかいではくえねぇようなうみのくいもんをごちそうしてやっからよ!」
…海の幸…だと!
確かに甲斐では食べられない。
ごくっと喉を鳴らすと、佐助さんが呆れたような表情でこちらを見た。
…食い気に惑わされても仕方ないじゃないか。
「…はぁ、言っとくけどもらってもこっちに着く前に駄目になっちまう気がすんだけど。今、夏だし。」
「それは…もういちどしこくにきてもらってだな……。」
「え、鬼の旦那、マジで言ってんの?ここまでもみくちゃにされてもう一度名前ちゃんに会うとか。」
佐助さんが唖然としている間に、私は元親ちゃんの手を取って「約束だよ。」と言った。
私達の交渉が成立した後、元親ちゃんは元の元親さんに戻り、同盟に調印してその日のうちに四国へと帰っていった。