――戦が終わり、甲斐へと帰ってきた私達。

いつものように敵武将を幼児化して誘拐…いや、拉致…ってどの言葉を使っても物騒だけれど、とにかく連れて帰ったのだが、その幼子は先程の西国の鬼と呼ばれる者と似ても似つかないような可愛らしい顔立ちをしていた。

その幼子はじろじろと見られたことが嫌なのか、どこかむすっとした表情を浮かべている。

その姿がやっぱり愛らしくて……居てもたってもいられず私は抱き付いた。

…いや、こんな可愛いものを抱き付かずにどうするよ、オレ!


「かぅんわぁいい〜〜!」

「…何だか名前の顔が緩みっぱなしだな。」

「……。(何だか気味が悪いぞ、名前。)」

「…そういえばなんか聞いたことあるかも。西国には昔、姫若子がいるって話。…それってもしかして鬼の旦那のこと?」

「…ってたけだのしのび、それをばらすんじゃねぇ!」

「駄目だって。可愛い子がそんな言葉づかいしちゃ!」


 可愛い見た目にも拘らず、汚い言葉遣いをする元親ちゃんに私は思わず眉を吊り上げて怒ってみせた。

それを傍で見ていた3人は呆れたような笑みを浮かべている。

…っていうかさっき小太郎君に結構酷いことを言われた気がするのは気のせいだろうか。

ふと思いを馳せていると、私の腕から逃れようともがく元親ちゃんの姿があったので、腕で押さえてみせた。


「たのむ!こうさん、こうさんするから!だからだきかかえるのはやめてくれ!」

「あー…マジで可愛い着物を着せてあげたい。」


――私の言葉に元親ちゃんは言葉にならない悲鳴を上げている。

なんだか心がぽかぽかする。

色々気力が回復しているような気がする。

私が元親ちゃんを愛でている間、3人の間でこんな会話があったことは知らない。


「なんだかいつもより名前ちゃんの婆娑羅が回復してる気がするんだけど……ちょっと妬けちまうよな。」

「……。(なら、長曾我部と代わるか?女物の着物を着せられているところだが。)」

「いや、それは勘弁。」

「…私の時はこんなに名前が可愛がってくれることはなかった気がするが。」

「いや、かすがの時もこのぐらいだったってば。丸一日一緒だったし…あ、この後面倒そうな気がする。」

「……。(早く信玄公のところに知らせに行った方がよいな。俺が行こう。)」

「…何だか風魔も武田の忍びらしくなったな。このままだとお前、長の地位を取られるんじゃないか。」

「恐ろしいこと言わないでくれる!?」


――第十五話 「げきかわですよ、ひめわこちゃん」




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