――武田道場はどうやら層を成す建物のようだ。

1階のフロアに広さはないものの、迷路のように複雑に入り組んでいる。

何回か来たことのある幸村さんもそれを見て驚いていた。



「…俺が入った時はこんな感じではなかった気がするのだが。」

『そりゃそうでしょ。何ていったって名前ちゃんの特訓のために改装したんだからさ。』

「その声は…佐助か!」

『はいはい、俺様ですよ。旦那、ちゃんと名前ちゃんのこと守ってよ。特訓とはいえ…名前ちゃんを捕獲するために俺達真田忍隊は本気でいくんだからさ。勿論、風魔もね。さーて…俺様もそろそろ行きますか。いざ、忍び参るってね。』


 どこかから響く佐助さんの声は途切れ、同時に不穏な空気が道場内を流れ始めた。

その空気に反応してか、幸村さんも二槍を構える。


「…名前、行くぞ。俺の後ろをしっかりついてくるのだ。」

「了解です!頼りにしてます、幸村さん。」


 私達は逸れぬようしっかりくっつきながら進んだ。

…どうでもいいけど、私に対して「破廉恥」と叫ばない幸村さんはやっぱり失礼な気がするよ。



――1階の迷路は大変だ。

私は忍ばせていた筆と半紙に通った道を記入して地図を作りながら進んでいった。

その周囲を幸村さんは警戒しながら進んでいく。

1階の迷路の途中で何度か襲撃にあったものの、手加減した苦無で到達するスピードが遅い方は私が容易に弾き飛ばすことは出来たし、その他は幸村さんが二槍を振り回すことで弾き飛ばすことが出来た。

途中、「幸村様に向けちまったよ……。」という焦りの声が聴こえた気がするが、気にする余裕はない。

私の地図と幸村さんの槍によって、やっとのことで1階を攻略し終えた私達を待っていたのは狐面を被った佐助さんによく似た男だった。

…っていうか佐助さんじゃないの?


「…天狐仮面殿だ。」

「って佐助さんにしか見えないんですけど。」

「アンタが名前だな?猿飛佐助から話は聞いている。アンタを捕まえるよう言われてるんだ。悪いけど、手加減はしないよ。」

「真田幸村がお相手致す!天狐仮面殿、覚悟召されよ!」

「…って佐助さんじゃないんですかね。」


 私のツッコミは全て無視されて2人の勝負は始まった。

幸村さんの攻撃を上手く天狐仮面(仮)は受け流す。

…っていうか私は先に行った方がいいんだろうか。

次第に勝負に熱中し過ぎるあまり、幸村さんは私のことを忘れていく。

天狐仮面は分身し、1体は幸村さんの相手をし、もう1体は私の前にやって来た。


「アハー…旦那ったら勝負に熱中し過ぎて名前ちゃんのこと、忘れてるよね。…こりゃ早くも勝敗はついたかな。」

「…佐助さんですよね、天狐仮面。」

「あらら、バレちまったらしょうがないか。ま、初めから旦那しか騙されないもんだと思ったんだけど。じゃ、名前ちゃん。お手並み拝見…といきますかね。」


…やっぱり佐助さんだったのか。

そう心の中で呟いたと同時に、佐助さんと軽く苦無で打ち合う。

…すっごく余裕っぽいのがムカつく。

佐助さんにとってはお遊びのような苦無の打ち合いが終わった時、幸村さんがやっと気づいたのか、私を米俵のように抱え、次の階へと逃げていった。

…何かルールを設けてあったのか、佐助さんはそれ以上追ってこない。

…というかさっきので本当の戦闘だったら、惨敗のような気がする。



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