――話の算段が付いた時、眠っていた利家さんも起きてきて、元に戻す準備は整った。

まずは私の好み的にまつさんからだ。

抱き上げて頬擦りをしてみる。

…柔らかい。

やっぱり女の子は違うよね。

暫く堪能していると、顔を引き攣らせた佐助さんに肩を叩かれた。


「ねぇ、名前ちゃん…その過程、必要?」

「え、大事ですよ。何か色々と活力がもらえる気がするんですよ、これ。…ハッ、まさかこれが私の婆娑羅の回復方法?」

「いや、あり得ないっての!」


 私の言葉に盛大にツッコミを入れた後、佐助さんは口許を押さえ、何かを考え込み始めた。

「…いや、強ちあり得ないわけではないかも。」とか「…もし本当にそうなら、俺様の心配は何なの?」とか独り言を呟き始める。

…何か気味が悪いから、そっとしておこう。



 そんな佐助さんを置いておいて、まつさんを愛でることを優先した。

暫くぎゅっとしてから、頬に口づける。

あっという間に元に戻ったまつさんを見て、利家さんは驚いていた。

…夫婦だから利家さんには手早く元に戻した方がいいかも。

すぐに利家さんには時間をかけず、頬にキスをすると、元に戻った2人は抱き合った。

…え、何このバカップル。

さっきから凹んでいた慶次さんを呼んで、耳打ちする。


「ねぇ…あの人達、いつも「ああ」なの?」

「…ああ、そうだけど。相変わらず仲が良いよな、利とまつ姉ちゃん。幼子の時も様子は変わらなかったぜ。」


 慶次さんの言葉に私の頬が引きつる。

…マジで。

こんなに仲の良い夫婦は元の世界でも中々、見られないかもしれない。

思わずいちゃつく2人から遠ざかっていると、さっきからぶつぶつと呟いていた佐助さんに肩を抱かれた。


「だから言ったでしょ。2人を見りゃ分かるって。あの2人、戦の時もあんな調子なんだぜ。ホントこっちの調子狂うよね。」

「…そうですね。ところで佐助さん、なんか距離近くないですか?」

「気のせいじゃない?それより名前ちゃん、ちょっと試させてくんない?」


…何だか嫌な予感がする。

逃げる間もなく、佐助さんに「はい、動かないでねー。」と声をかけられ、苦無を突き付けられた。

どうでもいいけど、なんか予防接種を受けるような一場面だ。

あっという間に幼子になった佐助さんは私に抱っこを強請る。

…相変わらず完敗ですよ、君には。

求められるままに抱き上げる私を見た慶次さんは顔を引き攣らせた。


「…名前がそういう力を持ってるってことは聞いてたんだけどよ…いざ目の前で見せられちまうと、吃驚するよなぁ。…というかその幼子が忍びの兄さんってことが信じられないぜ。」

「うるさいよ、ふうらいぼう。」

「…あ、間違いなく忍びの兄さんだ。幼子にそんな殺気向けられるとは思わなかったな。」

「それより佐助さん、何を試すんですか?」


 私の問いかけに応えるかのように私に佐助さんはしがみついた。

…おう、その仕草は反則だ。

あざとい仕草に表情を浮かべる佐助さんに我慢できなくなった私はぎゅっと抱きしめると、先程まつさんにやったように頬擦りを始める。

それを見ていた慶次さんは恐る恐るといった風に私に話しかけた。


「…その幼子、忍びの兄さんだってこと忘れてないかい?大の男相手にそういうことすんのはちょっとどうかと思うけどな。」

「いいんです、今の佐助さんだったらいいんです。慶次さんこそ、そうやって夢の醒めるようなこと言わないでくれませんか?せっかくの心地よさが半減します。」


 至極真面目な表情でそう言う私に慶次さんはびくっと肩を震わせ、怯えたような表情を浮かべた。

…そんなまるで変質者を見るような眼で見ないで頂きたい。

それより愛でるのが先だ。

再度幼子特有の柔らかい橙色の髪に顔を埋めて堪能していると、幼子の佐助さんはもぞもぞと動き出した。

…どうしたんだろう。

少し抱きしめる力を緩めると、小さい佐助さんは「…やっぱりね。」と呟いた。

…何が?と聞きたかったものの、すぐに私と口づけをすると、甘いひと時の時間が終わり、佐助さんは元に戻った。

戻った途端、佐助さんは実験結果を報告した。


「名前ちゃんの闇の婆娑羅…つまりこの幼子化させる力は幼子を抱きしめることによって、婆娑羅を回復させてる。」


…どうやら佐助さんの実験結果はさっき私がふざけて言った通りだったらしい。

そして続けての報告によると、自分で幼子になろうと苦無を突き付けた場合はそこまで力に制限が加わるわけではなく、多少の婆娑羅が使えるという事、佐助さんはその婆娑羅を利用して私に流れている闇の婆娑羅を調査したらしい。

…あの私が一心不乱に幼子を愛でている間にそんなことをしていたとは。


「…つまり私がこの力を使い続けるには幼子を愛でる必要があるというわけですね。…何て私得な回復方法!でも、ちょっと待ってください。それなら定期的に供給してくれるような人が要りますよね。」


…つまり「餌」が必要ですよね。

良い笑顔でそう言ってみたら、佐助さんと慶次さんにドン引きされた。

…うん、分かっていたよ。

その反応されるってことくらいは。

けれど、その後の展開は予想していなかったものになった。

さっきまで引いていた表情を嘘のように消した彼は眼を細め、口許だけ微笑みの表情をつくったまま言った。


「…なってあげてもいいよ。武田の天下のためにゃ、俺様が一肌脱ぎましょうかねぇ。」

「いや、完全に下心で言ってるよな。」

「風来坊、煩い。」


 佐助さんは慶次さんを殴りつつ、こちらに向かってくる。

その目つきは鋭く、逃げ出すことを許さないような視線だ。

…元から逃げるつもりもないけれど、どこか本能的に不味いと思うのはなぜだろう。

大人しく佐助さんに捕まると抱えられ、幼稚舎を後にした。

…とりあえず自分の力の秘密が分かったのでよしとしよう。

佐助さんに抱えられながら、私はそう思ったのだった。





――第十三話 「ばさらのちから」



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