「っ――名前ちゃん!」


――名前が傷を負った。

俺は表情には出さないものの、内心驚いた。

…名前に殺気を覚えた者は例外なく、傷をつける前に幼子になるのではなかったのか。

そう思いつつ、名前が倒れたすぐ後に前田の2人が幼子化をしたのを見守った。

どうやら名前の力は及んだらしい。

ふと一連の出来事を思い返してみると、2人同時に名前に向かっていたのが原因らしいということが俺には分かった。

前田利家の方の攻撃は無効化されたものの、その妻であるまつの槍は名前を傷つけている。

きっとこれからは1人ずつ名前の下におびき寄せる戦略を練らなければならないだろう。



 俺がそう結論を出している間に、猿飛は酷く取り乱した様子で名前に駆け寄った。

おそらく名前は傷を負った衝撃で一時的に気絶しているだけのようだから、そこまで取り乱す必要はないのだが。

…奴のその様子はもはや忍のそれではなかった。

名前を抱きしめ、一刻も早く戻る算段を奴はつけ始めた。

…おい、幼子化したあの2人はどうする。

見ていられなくなった俺は猿飛の肩を叩いた。


「……。(猿飛、落ち着け。名前はただ気を失っているだけだ。一刻を争う状態ではない。あの2人を連れ帰るのが先だろう。)」


 俺の話を聞いて我に返ったのか、猿飛は平常心を取り戻した。

頭を掻いて、俺に言いづらそうに申し出た。


「…風魔、悪かった。はぁ…ホント自分でも信じらんないわ。名前ちゃんが傷を負ったぐらいでこんなに取り乱すなんてさ。悪ぃけど、次に名前ちゃんを使った戦をすんのなら、風魔が名前ちゃんについててくれない?…名前ちゃんといると忍でいられなくなっちまう。」


…正直、ここまで猿飛が狼狽えるとは思わなかった。

そしてここまで俺に頼むとも思っていなかった。

予想もしていなかった展開に表情を殺すことが出来ない。


「……。(いいのか?俺は今では武田の支配下にあるとはいえ、北条の忍だ。真田のお前の部下に頼む方がいいんじゃないか。)」

「…俺の部下よりアンタの腕の方が確かだ。それに……今のアンタのことを俺様は「信頼」してる。」


――猿飛の言葉に、俺は息を呑むことしかできなかった。

いつもは軽々しい物言いをする奴が今は至極真面目な表情でそう語る。

その言葉を偽りだと切り捨てることが今の俺にはできなかった。



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bkm
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