佐助さんの目的地である団子屋さんに着くと、佐助さんは団子50本という大量注文をした。

さすがに団子屋さんも困ったのか、しばらく待ってくれと言われ、佐助さんと席に座って待っていた。

その間に佐助さんは先程のお店で買った簪を手に取って、私の髪に挿した。

…屋敷に帰ったら着替える前にちゃんと鏡で見てみよう。

そう思った私は屋敷に帰る楽しみが出来て口元を緩めた。

その瞬間――誰かに声をかけられた。


「そこにいるのは忍びの兄さんじゃないかい?いいねー、もしかしてその別嬪さん、忍びの兄さんの好い人?」

「…まあ、そんなとこ。それより俺様、今日非番なんだよね。城に用があんのなら、直接旦那のとこに行きなよ。あ、門を壊すのだけはやめてくれる?俺の仕事が増えるから。」

「えー…せっかくだからそのお嬢さんとの馴れ初めを聞きながら案内してくれよ。忍びの兄さんの恋の話なんて珍しいもんを逃すなんて俺の性じゃねぇよな。ほら、夢吉も聞きたがってるぜ。」


…佐助さんが伊達さんの時と同じような深い溜息をついている。

今頃、どうやってこの人を追っ払おうか考えているんだと思う。

その間に私は思い出す。

…恋の話が好きな人といえば。

もしかしてこの人がかすがちゃんの言っていた「慶次」さんかもしれない。

団子屋さんに呼び掛けられ、佐助さんがその場を離れた時におずおずと聞いてみた。


「…もしかして慶次さんですか?」

「へー…こんな可愛い子が俺のことを知っていてくれたのかい?光栄だねぇ〜、この際、忍びの兄さんの口からじゃなくてもいいや。アンタと忍びの兄さんの馴れ初め、聞かせてくれるかい?」

「…あの、慶次さんが想像しているような関係ではないと思いますよ、私と佐助さんは。」


 私がそう言うと、慶次さんは目を丸くして驚いた表情を作ってみせる。

その瞬間、団子を受け取ってきた佐助さんが私と慶次さんの間に割って入った。


「なに勝手に話してんの?ほら、案内してやるからさっさと歩きな。アンタが面白がるような話は何もないよ。無駄話なんて不要だろ。」

「…やっぱそういう関係だと思うんだけどな。…って痛ってぇ!?何しやがんだよ!?」

「無駄話なんて不要だって言っただろ。大人しく旦那のところまでついてくればいいんだ。ちょっと黙ってなよ。」

「…はぁ…ちょーっとお嬢さんと話したぐらいで妬くことないだろうに。嫉妬する男は嫌われるぜ…って痛ってぇ!?忍びの篭手で何も殴ることないだろ!?」

「黙ってないと頭が血だらけになるよ。いいの?」


 私の手を繋ぎながら、不穏なやり取りをする2人に苦笑いを浮かべずにはいられなかった。




――第十話 「こいのはなしとかぶきもの」



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