番外編〜もしももう一度井戸に落ちたのなら2〜




 2人が厨の方へ消えると、分身の方の佐助さんが私を抱き寄せ、胡坐を掻いているところに座らせた。

…というかこんなにギャラリーがいるところでよくそんなことが出来るな……。

私が変な感心をしている間に、分身の佐助さんは周囲をまるで気配を探るように見回してから主さんに聞いた。


「ところでこの本丸には一体何人いるわけ?随分沢山いるみたいだけどさ。」

「えーと…明石さんがいないから……。」

「全部で45振りだぜ、大将。相変わらずアンタは算術ってのが苦手だな。」

「ありがとう、薬研。」


 新たに出てきた体型が華奢ではあるけれども男前オーラを漂わせた男の子が佐助さんの質問に答えると、佐助さんは少し考えだした。

…もしかして敵に回した場合のことを考えているのかな。

相変わらず思考が物騒だと感じ、思わず苦笑いを浮かべていると、隣の一期さんが言った。


「…仕方ありません。真田の忍びならば、誠に警戒心が強いのは無理もない事ですな。心配しなくとも私達は主の命がなければ危害を加えませんのに。」

「はぁ…そうは言われてもね。こっちは織田や豊臣は敵対関係にあったわけで、警戒する癖がついちまってるっていうか……。」


 佐助さんが溜息をつきつつもそう応えると、突然襖が勢いよく開いた。

驚いてそちらの方を見ると、真っ白な人とその人に無理やり連れられて来たらしい浅黒い人が立っている。


「ならば、伊達の刀である俺達だったらどうだ?俺は鶴丸国永。何よりも驚きが生きがいでな。あとこっちは大倶利伽羅だ。暇そうだったから連れてきたぜ。」

「…慣れ合うつもりはない。」

「…なんでしょうね。伊達の人達ってキャラが濃くないといけないんですかね。」


 あまりのキャラの濃さについ呟いてしまうと、大倶利伽羅さんに睨まれる。

…その眼光の鋭さは片倉さん並だと思いますよ。

その様子を見ていた全身真っ白な鶴丸さんが愉快そうに笑い声を上げた。


「…面白いお嬢さんだな。それに…主にそっくりだ。君の名は何というんだ?」

「あ、名乗っていませんでしたね。猿飛名前といいます。」

「ほう…名前か。良い名だな。…って主、どうしたんだ。何だか顔色が悪いみたいだが。」

「いえ、何でもないです。少し最近、執務が多くて疲れたのかもしれないですね。少し席を外してもいいですか。」

「ああ、構わない。君のその顔色じゃ、1人で自室に戻るのも大変じゃないのか?」

「全然大丈夫ですから!」


――なんだかすごく変な気がした。

私が改めて鶴丸さんに名乗り、鶴丸さんが名前を言った途端、急に主さんの顔色が悪くなった。

周囲の皆も動揺した様子だ。

ただ1人、鶴丸さんだけがどこか何となく本気で心配していないような感じがした。

…私の気のせいかな。



 主さんが精いっぱい笑顔を作りながら、頻りに大丈夫ということを主張するも皆の心配した顔はそのままだ。

とその時、ずっと主さんの傍に控えていた長谷部さんが主さんの身体を抱え、俗にいう「お姫様抱っこ」のような状態で持ち上げた。


「主は俺が連れて行こう。」

「いや、長谷部さん…大丈夫ですから!それに調子も悪くないですし!」

「きっと日々の疲れもあって顔に出たのでしょう。それに予期せぬ客人の迎えもありましたし。さ、主。行きますよ。」

「ねえ、話通じてないよね!?」


 哀れ主さん。

長谷部さんは主さんを抱えたまま廊下に出て、自室に向かっていってしまった。

あまりの突然の出来事に呆然としていると、隣の佐助さんが意味ありげな視線でこっちを見た。


「…そんなに羨ましいならやってあげようか?」

「いや、そういう意味じゃないですから!」

「つくづく君達は面白いな!」


 漫才もどきを繰り広げる私達を見て、白い鶴丸さんは至極楽しそうに笑っていた――


to be continued…

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