暖かな春のある日




 今日は何にしようか。

…献立に悩みながらスーパーを回る。

佐助さんはというと、外出した当初から私の手を掴んだまま離さない。

時々、何かに興味をもったように立ち止まることもあるが、殆どは私についてくるだけだ。

幸村さんのいない買い出しは大体、こんな感じで平和に終わることが多い。

…唯一、違和感を覚えるのは絶対、繋いだまま離さない手だけ。

おかげで近所では佐助さんのことを婚約中の彼氏だと噂されることもしばしばだ。

…というか佐助さんのことだから、きっとそれが狙いだと思う。

ともかく…そんな佐助さんに献立の希望を聞いてみた。


「…で今日の晩御飯は何がいいと思います?正直、お腹空くか分かんないから簡単なものでいいと思うんですけどね……。」

「あー…今日の夕餉の米はもう用意しちまったしな。味噌汁も下拵えは済んじまったし。」

「…って早いですね。うーん……あ、刺身にしましょう。」


 私の突然の思い付きに佐助さんはこれ以上にないほどの驚きの表情を見せた。


「…大丈夫なの!?刺身って高価なんでしょ?」

「…あー、この時間なら特売のものがあるから大丈夫です。そして幸いなことに佐助さんの舌も肥えてなさそうだし。甲斐や上田っていえば、海から遠かったですもんね。少し味が落ちたものでも構いませんか?」

「居候の身だから、なにも俺様に気ぃ使わなくたっていいって。」

「私が勝手にしていることなので気にしないでください。それに佐助さんも私が向こうにいたらそうするでしょ。」

「…それもそうだね。」


――佐助さんは少し考え込んだような表情を浮かべてからそう呟いた。

その後に少し小さな声で独り言を呟くような口調で「…本当にそうなっちまったらいいのに。」と言いながら遠い目をした。

…何でそんな顔をするのか。

私は少し引っ掛かりを感じながらも、気づかなかった振りをした。


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