dream
32 「合縁奇縁」
名前ちゃんが起きてきた。
どうやら保護者に代わってくれと竹中専務に言われたらしい。
「保護者って…」と相変わらずの扱いに溜息をつきつつ、何で俺と話そうとするんだという疑問を抱きつつ電話口に出る。
「はい、代わりました。猿飛と申しますが、名前ちゃんから聞いたと思うのですが、今日は会社を風邪で休むんですけど…何か俺と話すことってあります?」
「…武田の忍びだね?驚かないで、よく聞いてくれ。もうすぐ君の夢が終わる。彼女を連れていくなら今月くらいしか猶予は残されていない。」
急に聞こえてきた声色は…確かに竹中半兵衛だった。
しかも俺達の世界のよく知るアイツ。
俺は緊張が走った声を隠しつつ、忍をやっていた時と同様の態度で通話を続けた。
「…どういうことだ?アンタは…井戸の旦那と何か関係があるのか?」
「関係あるも何もこちらの世界でもう一度生を受ける時に僕は会っているんだ。それから…君達が来ること、帰る時期も聞かされている。何かあれば、助けてやってくれってね。その言葉に従って、僕は彼女を手伝ってきた。それで今、君達が帰る時期が来たから忠告した。それだけのことさ。」
「…何が目的だ?そんなことをやったとしても、アンタに得になることは何もないはずだ。」
「あるさ。その条件を飲んだからこそ、僕と秀吉、刑部はまたこちらで同じ姿で生を受けて一緒に生きている。今度は健康な状態でね。それに君達がこちらに来たことによって、慶次が、僕達が一端を担った世で元気に暮らしていることを知ることが出来た。それで十分さ。」
あちらの世界で話したよりも幾分か柔らかな声色で竹中は語る。
どうやらその内容には嘘偽りがないように聞こえる。
「その言葉を信じてもいいんだな?向こうでのアンタは信用ならなかったんだ。このくらいは疑わせてくれよ。」
「僕の言葉は信じてくれなくてもいいけれど、こちらの世界で僕が偽る必要がどこにある?それよりもう時間がない。早く彼女を説得して君達の世界に連れていきなよ。1人残されて僕に泣きつく彼女を見たいのかい?」
「…本当に悪趣味だな、アンタ。」
「ふふ…君達の世界に連れていく前に彼女に一度会社によるよう伝えてくれるかい?退職の手続きも踏まえて三成君に渡したい文があるんだ。」
「分かった…それくらいは頼まれてやるよ。」
「もう会うこともないと思うけれど…彼女を幸せにしてやってほしい。」
竹中はそこまで言い切ると、一方的に通話を切った。
竹中の言うことを信じるとするなら…これは急がなきゃいけないようだね。
再び寝に戻った名前ちゃんにスマホを返すと、PS3の電源をつけた。
prev | next