戦国無双短編 | ナノ
1
「弥三郎くん」
「………嫌だ」
「ほら、もう帰らなきゃでしょ?」
苦笑いして、そう言いながらも優しく抱きしめてくれる五つ年上の幼なじみ。
今は、何処にいるかわからない初恋の人。
「…紅蓮」
名前を呼べば、必ず振り返って笑顔で返事をしてくれた。
「紅蓮」
今はいない。
だが、呼ばずにはいられない。
「………紅蓮」
「なぁに、弥三郎くん?」
バッと振り返ると…
「…久しぶり」
紅蓮が髪をなびかせ、変わらぬ笑顔で立っていた。
「もう、姫若子じゃないんだね」
ずいぶん大きくなって、と言って、紅蓮は微笑む。
「…今まで、どこにいた?」
「あのね、私…お見合いしたの」
衝撃的な事実。
だが、元親も正室がいる。
それを合わせればおあいこなのだが。
「だけどね、失敗」
「…?」
紅蓮は空を見上げた。
「相手の方に、恋人が居たんですって」
少し悲しそうに、紅蓮は微笑んで見せる。
「…ならば」
元親は紅蓮を真っ直ぐに見据えた。
「ならば、俺の傍で笑え」
「ふふっ。………それも、いいのかもね」
(まだ子供だと思ってたのになぁ…)
(ふっ…上等)
(でも、私ったら五つも年上なんだけど!)
(それも上等)
(よろしくね、弥三郎くん)
(……上、等…………)
(どうしたの?)
(……………)
未だに子供扱いをされて、ちょっとしょぼくれてしまった元親さんでした
.
[←] | [→]