戦国無双短編 | ナノ
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「噂は聞きますが、私自身は三成さんを嫌ってはいません」
紅蓮がニコリと笑い、穏やかに言うと、三成は一瞬、ほんの少しだけ目を見開いた。
それきり反応はなく、また二人の間に沈黙が降り立った。
だが、先ほどと違い、心地よさが二人にはあった。
真っ暗な中、ライトが彩る町並みを窓越しに見る。
やがて、三成の声が紅蓮の耳に聞こえた。
「…着いたぞ」
エンジンキーを回し、シートベルトを外して三成は下りる。
全く無駄の無い動きに、紅蓮は見とれた。
伏せた目の縁を舞う長い睫毛。
何故、この人はこんなにも綺麗なのだろうか…
「おい、紅蓮」
「…あ、すっすみません!」
ようやく自も下りなければならないことに気がついた。
が。
「…あ、の…?」
三成が、紅蓮の降り口に立っていて、紅蓮が下りられないのだ。
とりあえず、三成が動くのを待ってみることにする。
が、一向に動く気配がない。
「…三成さん?」
紅蓮が名前を呼ぶ。
しばらく紅蓮を見下ろしていた三成は、ややあって、顔を近づけた。
紅蓮の頭の後ろに手を回し、右手で顎を持ち上げる。
刹那、唇に訪れた温もり。
「みっ……!?」
三成にキスされていることに気づくのに、時間がかかった。
驚きのあまり、紅蓮の頭の中は真っ白になっている。
そんな紅蓮の様子を知ってか、三成はゆっくりと離れ、立ち上がる。
「…行くぞ」
紅蓮の手を引き、立ち上がらせ、三成は鍵についたボタンを押して車にロックをした。
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