戦国無双短編 | ナノ
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指でキーボードを押しながら、壁に掛かっている時計を見る。
針は12を越え、日付は随分前に変わっていた。
「まだいたのか」
資料を保存し、印刷ボタンを押したその瞬間に聞こえた声。
後ろを振り返ると、スーツを着たままのイケメン上司、石田三成が立っていた。
言葉はきついが、ただ素直になれないだけなひと。
紅蓮は密かに、そんな三成に恋心を抱いていた。
「もう日付も変わったというのに、よくやるものだな」
「あ、はぁ…」
今日の彼は、いつもより穏やかな気がするのは気の所為だろうか…?
「おわったのか?」
「あ、はい。印刷が終わればもう仕事は…」
「ならば、飲みに行くぞ」
唐突な美形上司の言葉に、目を点にするだけの紅蓮。
そんな紅蓮を見兼ねてか、三成はさっさと印刷し終わった書類をまとめた。
「行くぞ」
「は、はいっ!」
分けがわからないまま、紅蓮は外に出て行く三成に着いて行った。
三成の車の助手席に乗ったは良いが、何を話せば良いかが全くわからない紅蓮。
膝の上にのせている手を握りしめ、何とか沈黙に耐えていた。
「…お前は、俺をどう思う」
「はい…?」
三成の唐突な質問に、紅蓮はついと顔を上げる。
相変わらず、綺麗な顔立ちだなぁと、つい羨望の眼差しを向けてしまう。
「俺の陰口やらを、お前は聞いているのだろう?」
確かに、入社したてのころはよく聞いていたし、いきなり三成の部下になってこき使われて、最悪だと思っていた。
だが、時間が経つにつれて、紅蓮の三成への印象は変わっていった。
彼は、ただ不器用なだけなのだ。
紅蓮は口元を緩めた。
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