いちばん
八月に入った。
どうやら元就くんの家族が帰ってくるのは八月三十日らしい。まさか彼はそれまでずっと公園にいるつもりだったのだろうか?
今は3時のおやつのクッキーを焼いている。
子供かと言いたいくらいに元就くんは実はものすごい甘党だったのだ。意外な一面だ。
「ふふっ…」
甘いものを前にした時の彼はとてつもなく可愛い。いつも無愛想なだけあって余計にだ。
頬張る姿はまるでハムスター。
今焼いているクッキーが出来たら彼は喜んでくれるだろう。
「…あ、元就くん……あれ?」
2階から降りてきた元就くんの顔がやけに赤い。
「元就くん、具合悪い?」
「うぬ…」
やっとこさで返事をした元就くんの声はガラガラ。ってこれ夏風邪じゃないの!?
私はあわてて元就くんの元へ駆け寄った。首筋に手を当ててみた。熱い。
「普通は、額、ではないのか」
苦しそうなのに抗議する。うん。それだけ意識があれば大丈夫。寝てれば治るよ。
でもなぁー…やっぱり心配。
「元就くん、ベッドで休ん…」
「クッキーを食べてからだ」
…具合悪いクセにクッキーが食べたいんだ。でも食べさせるわけにはいきません!
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