「へ、君好きな奴いたの?」
「いっいるわよ好きな人くらい!私だってもう華の女子高生なんだから!」
「俺、幼なじみなのに全然知らなかったなあ」
「てゆーか、元々退とこんな話する事ないもん」
「そーだね。で?」
「なに?」
「誰?好きな人」

多少家が近所で幼稚園から腐れ縁が続いてるちょっと仲が良い、所謂“幼なじみ”な退の質問。ここで『さ、退…』などと答えるような少女漫画的関係では決してない。更にもし仮に私が退に恋をしていたとしても、こんな場面で告白する程勇気のあるやつでもない私はきっと黙りこくるのだろう。
でも、退を好きだなんてことは有り得なくても、私はその質問に答える事が出来なかった。
誰?なんて、

「…私が一番知りたいっつーの」
「え?なんて?聞こえない」
「退の全体毛を毟りたいっつったのよ」
「ひどい!」

初めて逢ったのは確か小学1年生の頃。
ブランコに乗りながら次は何して遊ぼうかと視線を巡らせていると、砂場の方から点々と何か奇妙な落書きが地面に掘られていて、不思議に思った私はブランコを降りて落書きを追った。と、その先にいたのは同い年くらいの少年。

「ねーねー、なにかいてるの?」
「…ス○ー」
「○プー?おかあさんといっしょの?」
「おぅ」
「ぅへ、あはは、にてないよぉ」
「にてるもん!しょ○こおねえさんこうかいてたもん!」
「しょう○おねえさん、え、へたくそだもん」
「そうなんかィ?」
「そうなの」


直後、お姉さんらしい人がそーちゃんと呼びながらその少年を迎えに来た。甘栗色の、可愛い顔した絵心のない男の子。それから何度公園に行っても、彼に会うことはなかった。

(今思えば逆にあそこまで忠実に再現出来た事を褒めたいくらいだよ)

次に会ったのは小学5年生くらい。突然の雨に降られて雨宿りに立ち寄ったどこかの店の屋根の下で身動きが取れなかった私の前に、突如としてその人は現れた。

「急に雨なんか降ってくんじゃねぇよ土方死ね。…あ〜あ、びしょ濡れでィ」
「は、ハンカチで良かったら、使う?」
「ありが…あれ?」
「あ、そーちゃん…?」
「何で二回しか会った事のねェ奴にそーちゃん呼ばわりされなくちゃなんねーんでィ」


ふはは、と楽しそうに笑った後、彼は私のハンカチは借りずにちょっと待ってろと言い残して再び雨の中に飛び込んだ。彼も傘を持っていないのに、どこへ行ってしまったんだろう。彼は何者なのか、とか、そのまま戻って来なかったりだとか、そういう事を考えている内、再び彼は現れた。今度は傘を持って。

「俺ん家、こっから近ぇんだ。ほら、傘やるからさっさと帰れよ。カゼひくぜィ」

それだけ言うと、再び雨の中へ飛び込んですぐにいなくなってしまった。傘、一緒に差して帰ればいいのに。追いかけようと駆け出したが、彼と私との間で赤になった信号を待つ内、見失ってしまった。

(家近いだなんて嘘ついて。じゃああのビニール傘に付いてた値札は何?)

後日その店の近辺を探し回っても、彼を見かける事はなかった。優しくて、不思議な男の子。変なの、と彼の事を色々考え続けて、気が付けば好きになっていた。次にいつ会えるのか、この恋は報われるのか、その人の名前すら、知らないのに。

「あ、やばい遅刻するよ!」
「嘘!入学式早々遅刻なんて嫌だよ!」
「ちょっと急いだら大丈夫だって」
「私、友達出来るかなぁ」
「俺ね、同い年の従兄弟もこの高校らしいんだ」
「へぇ、やっぱり退みたいに幸薄そうな人?」
「失礼だな。でも、俺とは全く違う王子様タイプの人だよ。腹黒、ってか真っ黒だけどね」
「なにそれー」

駆け足で飛び込んだ新しい校舎、新しい教室。Z組などと言うふざけた番号のクラスをくるりと見渡すと、目に飛び込んだ栗色頭。私がそーちゃんと叫ぶのと、退が沖田さんと叫ぶのと、彼が目を見開くのと、一体どれが早かっただろう。


神出鬼没の盗人
 そうさ彼はハート泥棒!


(110404)
アニ銀復活企画様提出。
復活おめでとォォォオオ!!

まさかの沖田さん山崎従兄弟設定。
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