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右手にはシャープペンシル。
左手には参考書。
さあ何でも来い!どんと来い!
私は戦う気満々だ。武器は装備している!


勢いよく問題に目を向けた私は、数秒後頭から煙を出すことになった。






―解けない問題―





斎「…で。何がわからないのだ?」


 「組成式を求めなさい。」


斎「それだけでは全くわからないのだが。」



ため息をついて私の手から参考書を奪ったのはクラスメイトの斎藤一君。
いつもテストで一番。名前の通り一番だ。
学年一位のポジションは揺らぐことがない。


テストまであと三日。
さすがの私も焦り始めて参考書を開いたものの時すでに遅しとばかり理解不能になっていた。
特に化学、日本語なのか?ってぐらい数字とアルファベットが羅列しているじゃない。
私日本人エイゴワカンナイヨー。


斎「…英語ではない。日本語だ。」


 「あれ、聞こえてた?斎藤君心もよめるの?」


斎「あんたが呟いていたのではないか。」


 「それは失礼。」


私の机を挟むように向かい合って座っている私たち以外に教室には誰もいなかった。
ほとんどの生徒が帰宅するか部活へ行くかの二択を選ぶ中、どうして私達が残っているのか。



それは数分前にさかのぼる。



家に帰ったら間違いなく教科書なんて開かないと思った私は教室に残って勉強をしようと思ったのだ。
友達が帰っていき、少しずつ人が減ってきた頃、やるかと参考書を開きすぐに固まった。


何度目で文を追っても理解できず、おそらくそれだけで十分ぐらい費やしたに違いない。


その様子をたまたま見ていたらしい斎藤君が見るに見かねて声をかけてくれた…のだ。


手が動いていないようだが?と声をかけられて驚いた私は参考書をばさりと床に落とし、声の主を見て驚いた。
だってまさか斎藤君が、あの頭脳明晰の斎藤君が、このクラスで一番のモテ男斎藤君が、クールビューティ斎藤君が…やめよう、きりがない。
とにかく斎藤君が声をかけてくれるとは思わなかったからだ。


彼は私の前の席に座ると椅子の背もたれに腕を置き真っ白のノートを見つめた。
そして最初に戻る。




斎「水素、炭素、酸素からなる化合物を4gを完全燃焼させた時、水と二酸化炭素をこれだけ得られた…その化合物の組成式だな。」


参考書の問題を指でなぞり確認をしてくる。

…斎藤君、指先まで綺麗なんだね。ずるい。


私の不埒な思考が顔に表れているのか、聞いているのかと眉間に皺をよせられてしまった。
ごめんなさい。


斎「これはまず炭素、水素、酸素の質量を求める。」


カチカチとシャープペンの芯を出し、さらさらとノートに式を書きだす斎藤君。
そんな仕草もスマートでやっぱりかっこいい人は何をやってもかっこいいんだなとぼんやりしてしまった。みんなが騒ぐのもわかる気がする。



斎「まず炭素の質量だが、二酸化炭素の質量×炭素の原子量を二酸化炭素の分子量で割る。同様に水素の質量を割り出し、4mgからそれぞれ引いた分が酸素の質量になる。」



 「うん。」


斎「組成式はモル数の比を求めれば良い。」          


 「斎藤君、先生になれるね!!!」


斎「…授業を聞いていればわかるはずなのだが。」


 「うーん、耳が痛いですな。」


斎「あんたは…今ここで聞いて理解ができるなら授業をちゃんと聞いていれば問題ないはずではないか。」


それはそうなんだけどね。
授業中って他にもいろいろあるじゃない。
寝たり、妄想したり、宿題やったり。
そんなこと口が裂けても言えませんけど。


その後も斎藤君は私に丁寧に解説してくれた。おかげで化学のテストはうまく乗り越えられる気がする。


気がつけば一時間以上が経過していて、私は焦ってごめんと謝った。
だってたかがクラスメイトのしかも授業を聞いていない自業自得の駄目な私の勉強に一時間も付き合わせたのだ。斎藤君の貴重な時間を一時間潰したんだよ?



斎「何故謝る?」


 「だって…一時間も付き合わせて。斎藤君用事なかったの?」


斎「今日は特に何もない。それに俺も良い復習になった。テスト範囲は皆一緒だ。同じ勉強をして悪いことなどない。」


 「…斎藤君、良い人だね。」


斎「なっ!?」


しみじみと呟いた私の言葉に斎藤君が少しだけ頬を赤くした。
あれ?照れることなんてあるんだ。
ちょっと可愛いかも。


 「ねえ、斎藤君。」


斎「何だ?」


ばつが悪そうに伏し目がちになった斎藤君に私は笑顔でこう告げた。



 「付き合ってよ。」


斎「…。」

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