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沖(名前…一君…。)



職員室の前の廊下からは中庭が良く見えた。
そしてそこには名前と一君が楽しそうに話していた。



沖(名前…一君とは普通に話してる。)



僕には目も合わせてくれなかったのに?
じゃあつまり。
名前は…
一君のことが…。




持っていた進路希望の紙を握りしめていたことに気がついた。
クシャクシャになった白い紙。



きっと一君なら。
輝かしい未来をこの紙に書いているんだろう。
将来の夢とか考えてさ、いきたい大学をきちんと選んで、ちゃんとそれに向かって勉強して。



僕なんかと付き合うより。
断然一君の方がいいに決まってるんだ。



そうだよ。
僕が諦めれば、きっと名前は幸せになれる。



しっかりしてて名前のことを大切にしてくれる一君と一緒にいれば。



きっと幸せに…。



でも僕は。








進路希望の紙を素早く折りたたんでポケットに入れると僕は中庭に向かって走り出した。
一番近くの出入り口まで来たところで外から来た人物とぶつかりそうになる。



 「きゃっ!」


沖「ごめんっ!」


 「…総司!?」


沖「あ…。」



目の前に立っていたのは名前だった。
一君の姿は見えないからどうやら先に戻ってきたらしい。


 「あ…あの…。」


沖「名前!」


 「はい!?」


顔を赤くして目を泳がせていた彼女の両肩を掴んで名前を呼ぶとやっと目を合わせてくれた。
だけどすぐに恥ずかしいのか視線を逸らしてしまう。


沖「あのさ…。」


 「うん。」


沖「本当は、名前は一君と付き合った方が幸せになれると思うんだ。」


 「え?」


そう言った途端、名前が目を丸くして僕を見た。


沖「一君はしっかりしてるし、真面目だし、頭も良いし、名前のことを大切にしてくれる。…土方さんに言われたんだ。将来のこともちゃんと考えてようとしないやつに名前を任せられるかって。」


 「総司…。」


沖「本当その通りだと思う。自分と向き合おうとかそんなこと考えたこともなかった。」


 「でも、そんなの普通だよ?進路がしっかり決まってる子の方が少ないし…。」


沖「それでも考えなきゃいけなかったんだよ。」


 「それは…。」


沖「だから、名前が幸せになれるなら、僕は…。」


名前の目に映る自分の表情が情けなくて泣けてきた。
好きな子になんでこんな弱いところばかり見せてるんだろう。

らしくないよね。


 「あの、私ね…。」


沖「だけど。」


名前の言葉を遮るように言葉を紡ぐ。
多分聞きたくないんだ。
名前の幸せを願うのに。
他の誰かのところにいってほしくないなんて。


矛盾してる。



沖「だけど、やっぱり僕、名前が好きだよ。」


 「総司…。」


沖「ごめん…僕、ワガママみたい。」



そう言って名前を引き寄せる。
中庭にはあまり人が来ないとは言え、校内で抱きしめるのはなかなか大胆なことかもしれない。
名前が腕の中で慌てていた。


 「そそそそ総司!あの!ここ!学校!」



ああ、可愛い。
なんでこんなに愛おしいんだろう。


この子の幸せが一番なのに。
僕は自分も幸せになりたくて。
そしてそれには君が不可欠で。

なんて僕はワガママなんだろうね。




沖「名前のことは絶対に幸せにしてみせるから。信じられないかもしれないけど名前の為なら何でも頑張れる。将来のこともちゃんと考える。だから…。」


ぎゅっと抱きしめる腕に力を込めた。



沖「僕のお嫁さんになってください。」


静かになった名前が。


僕にしか聞こえない声で「うん。」と呟いて。


思わず腕から解放する。



 「恥ずかしいよ…総司、誰かいたら…。」


沖「名前!今…うんって言った?」


 「うん。」


沖「一君は…。」


 「一にはさっきちゃんと断ったよ。私総司が好きなんだって。」


沖「え!?」


楽しそうに話してたじゃない。
あれ、断ってたの?
僕と目を合わせてくれなかったのは…本当にただ照れていただけ!?


 「私も、総司が好きだよ?」


沖「っ…。」


小さい頃から知っているはずの笑顔が。
小さい頃から知っているはずの笑顔じゃなくて。



いつもは名前にちょっかいを出してからかっている僕が逆にドキドキさせられた。



 「一番の難関はお兄ちゃんって一に言われた。本当にその通りだと思うけど…。」



そんな僕の気持ちに全く気付かない名前はどうやら土方さん対策に頭を悩ませているみたいだけど。


沖「大丈夫。ちゃんとわかってもらうから。」


 「え?本当?でも大丈夫?さっき呼びだされてたよね…。」


沖「うん。でももう、これ書けるから。名前も一緒に行こう?」


 「へ?」


僕は名前の手をひいて再び職員室に向かった。

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