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「あの…斎藤君、どうして…。」

静かな廊下に二人きりになり、思わず斎藤君に尋ねた。
だって、どうしてあんな良いタイミングで彼が現れたのか。


「あんたがなかなか教室に入ってこようとしないから気になっていたのだ。結局入らず立ち去ったので追いかけた。」

「え!?気付いてたの?」

「教室に向かってくる足音がしたのに突然止まったからな。どうして入ってこなかった。」

「それは…。」


雪村さんと楽しそうに話してたから…なんて言えない。
だけど斎藤君は気付いていたのか、小さく息を吐くと口を開いた。


「雪村とは部活の打ち合わせをしていた。別に内密な話をしていたわけでもないからあんたが気にする必要はなかったのだ。」

「いや、そういうことではなく…。」

「雪村は大人しそうだが芯のある女子だ。あんたとも気が合うと思うのだが…。」

「えっと…そういうことでもなく。」

「一体何だというのだ?」


斎藤君って頭はいいけどこういうことには鈍いのだろうか。


「あの…さっきはありがとう。」

「当然のことだ。俺はあんたの彼氏役だからな。」


彼氏役。
役って言葉がなければいいのに。


なければいいのに?



ああ。
私、やっぱり斎藤君のことが…。


「それに、俺は嘘を言っているつもりもない。少なくともあいつより俺の方があんたのことは知っている。そしてあんたも…見た目だけで俺を選ぶ他の者より俺のことがわかっているはずだ。」


少し伏し目がちに話す斎藤君の横顔がいつもと違って見えた。
もしかして…照れてる?


「ねえ、斎藤君。」

「何だ?」

「やっぱり、偽物の恋人同士はやめたいと思うの。」

「…どういうことだ?」


私の言葉に驚いたのか、斎藤君がこちらに顔を向けた。
誰もいない廊下に沈黙が訪れる。


「さっき教室に入れなかったのは…雪村さんに嫉妬しちゃったから。」

「嫉妬?」

「斎藤君と楽しそうに話していて、羨ましくなって、苦しくなって。で、気付いたの。」


一度深呼吸。
だってこんなこと言うの、生まれて初めてなんだから。


「私、斎藤君のことが好きになっちゃったんだって。まだ話して間もないのに気になって気になって仕方ないんだって。」

「…。」

「だからもっと斎藤君のことが知りたい。友達からでいいから真剣に向き合いたい。すぐに付き合うとかそういうことじゃなくて、斎藤君にも私を知ってもらいたい。それで…知った上でもしよかったら…その…。」

「名前。」

「はい?」

「今日の放課後はあいているか?」

「え?うん。」

「なら図書館で課題を終わらせた後、どこかより道をしていこう。」

淡々と話す彼に、思わず瞬きを多くしてしまう。
あれ?私今告白してたよね?


「えーっと…。」

「どこにでも、あんたの行きたい所へ付き合う。…まずはあんたの好きなものを知りたい。」

「それって。」

「お互いのことを知っていくのだろう?」


そう言って口角をあげた彼の表情は相変わらず意地悪そうだったけど。
私は涙がでそうになった。


偽物彼氏と偽物彼女が一緒にいたら…
いつか本物になれるかな?


「斎藤君…あの、改めてよろしくお願いします。」

「ああ、こちらこそ。」


私達は廊下で、あの時とは違う握手をした。










おまけ





(あ、斎藤さん。さっき言い忘れてたんですけど…って斎藤さん!女の子を泣かしちゃだめです!!!)

(雪村!?)

(え!?あ…これはその…)

(斎藤さんが女の子を泣かせるなんて…土方先生に報告してきます!)

(待て!誤解だ!雪村!!!)

(嬉し涙なんだけどなぁ…。)






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