「斎藤さん、入ってもいいですか?」
斎藤さんのお部屋の前で中に声をかける。
すぐに入れと声がして私はゆっくりと襖を開けた。
ここに来た頃は勢いよく襖開けてよく怒られたっけ。
「お茶です。」
斎「すまない、わざわざ淹れてきてくれたのか?」
刀の手入れをしていた斎藤さんは私を見ると作業を中断してくれる。
すっとお茶を差し出すと嬉しそうに受け取ってくれた。
…なんだか悪いことをしている気分です。
胸が痛い。
斎「ん…何だか変な味がするのだが。」
「え!?あ…山南さんが疲れをとる漢方薬をくださって…。」
斎「山南さんが?」
「はい。」
納得したのかそのままお茶を飲み干す斎藤さん。
見た目に変化はないけれど…どうなんだろう。
「あの…斎藤さん。」
斎「どうした?」
「す…好きですか?私のこと。」
斎「なっ…あんたはいきなり何を…。」
顔を赤くして慌てる斎藤さん。
可愛いです。ほんっと可愛い。
私の時代にこんな純粋な男子がいるでしょうか?
い ま せ ん と も ! ! !
いつもなら照れてそっぽ向いてしまう斎藤さん。
だけど。
斎「好きだ。名前のことはとても大切に思っている。…愛している。」
「!!!」
斎「!?」
聞きました!?
すらすらと愛の言葉を紡ぐ斎藤さん!
キャラ崩壊万歳。
キャラ崩壊どんとこい!
心の中で小躍りをしている私。
目の前で両手で口を押さえて驚愕している斎藤さん。
部屋に沈黙が訪れる。
斎「お…俺は今…何を…。」
「何をって、私に愛を語ってくださったんですよ!!!」
斎「そのようなことは!」
「え…嘘なんですか?」
斎「違う!嘘ではない!が…そのようなことを簡単に言うことは…。」
ええ。
ないですよね。斎藤さんは。
ゲームでもなかなかデレてくれませんもん。
ああ、今はそれどころじゃない。
多分自分の変化についていけなくて困惑しているんだ。
どうしよう、ちゃんと言ったほうが良いのかな?
考えていると部屋の外から声がした。
山「斎藤君、名前君。いいですか?」
斎「はい。」
「山南さん?」
すっと襖が開いて山南さんが部屋に入ってくる。
私達の様子を見てもう薬を飲んだことを悟ってくれたらしい。
山「どうやら私が名前君に間違った薬を渡してしまったようです。」
「え?」
斎「間違い?」
山「それは疲れをとる薬ではなく、自白剤だったのですよ。」
え?
知ってますけど…。
あ、山南さん、私を庇ってくれるんだ。
山「なので四半刻ほど、斎藤君は嘘がつけません。自分の気持ちを隠そうとしても隠せなくなります。気をつけてください。」
斎「そんな薬が…。」
「山南さん。」
私が山南さんに声をかけると山南さんは微笑んでくれた。
私が斎藤さんに薬を盛ったとばれたら怒られちゃうかもしれないもんね。
山南さん…神!!!
斎「わかりました。俺は今日は非番なので外に出ないようにします。」
山「そうしてください。では、私は失礼しますよ。」
「はい。」
山南さんが出て行くと斎藤さんが小さくため息をついた。
斎「厄介な薬だな。なるべく静かに四半刻過ぎるのを待つしかないか。」
「屯所の中なら敵もいないですし、しばらくゆっくりしてましょうか。」
斎「ああ。」
私はお茶のおかわりを持ってくると斎藤さんに告げ部屋を出た。
「っ…よっしゃ!」
もう台所までスキップしちゃうよ。
あと三十分間、斎藤さんが素直になっちゃうなんて!
何て質問しようかな。
今なら何でも答えちゃうんだもんね。
台所でお茶の準備をしている時も顔のニヤニヤが止まらなかった。
すると私をからかうような声がした。
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