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数日後。
いつもより二本も早い電車に乗って学校へ向かった。
まだ人がほとんどいない校舎は静かでまるで休みの日に学校へ来てしまったかのよう。


斎藤君が早く来ていると聞いて体が自然と起きてしまった。
今日は部活の朝練もないし委員会もないはず。
誰もいない時間ならゆっくり話ができるかもしれないし、それを誰かが見てくれたら付き合ってるって思われるでしょう?
別に…他意はないわよ。


教室へ向かうと話声が聞こえてきた。
もしかしたらもう他の生徒がいるのかもしれない。
そう思った私はゆっくりと開いているドアから中を覗きこんだ。


そこには斎藤君ともう一人。

あれは…確か雪村さん。
剣道部のマネージャーだったはず。

もしかしたら部活のことを話しているのかもしれないと思い、何となく入れずに立っていた。


(斎藤君…笑ってる。)


あの意地悪そうな微笑みじゃない。
ふわりと優しい表情だ。
雪村さんも楽しそうに話していて二人の空間に入り込める気がしなかった。


(そりゃ…そうだよね。斎藤君だって普通に笑うし、女の子と話すよ。私なんかより付き合いも長いだろうし。)


自然と自分自身を納得させるように考える。


(…何で、私が苦しい気持ちになるの?)


数日前から話すようになって。
しかも付き合うふりをしているだけじゃない。
お互いメリットしかないからって、ただのごっこ遊びみたいなものだって。
私が言いだしたことなのに。


それ以上見ていていられなくて私は踵を返して歩き出した。


(とりあえず、授業まで図書館にでもいよう。)


そう思って図書館の方へ向かおうとした時だった。



「名字さん。」



振り返ると数日前に私に告白をしてきた男子生徒が立っていた。
格好からして部活の朝練だったらしい。



「早いね。こんな時間に来てるんだ?」

「まぁ…。」


軽く会釈をして立ち去ろうとした私の腕を彼は素早く掴んだ。


「待って!」

「…何か?」

「あのさ…斎藤と付き合ってるって本当?」

「はい。」


私がはっきりと肯定すると彼は目を丸くして固まる。
私を掴んでいた手にさらに力がこもる。


「あの、痛いんだけど。」

「どうして?」

「何がですか?」

「付き合うって…俺が言った後の話だよね。」

「そうですけど。」

「斎藤と仲良かった?どっちから言ったの?」

「あなたには関係ないですから。」


振り払おうとしても彼は手を離してくれなかった。
校舎内だというのに少しずつ怖くなってくる。


「あの…離して。」

「ねえ。どうして俺を振ったすぐ後に斎藤と?名字さん。」

「いい加減に…。」


こうなったら蹴り上げてやろうかと覚悟した時だった。


「名前から離れろ。」


私の後ろから低い声が響いた。
もう振り向かなくてもわかるぐらい、耳に残っている声。


「斎藤…。」

「斎藤君?」


斎藤君は彼の腕を掴んで私から引き離した。
すぐに自分の背に守るように私を移動する。


「俺から交際を申し込んだ。それで付き合うことになった。何か問題があるか?」

「な…なんで?あの時は他に好きな人がいるとか一言も言ってなかったじゃん。…やっぱり見た目かよ。」


理不尽な事を言われているのに傷ついた。


見た目で選ぶ。
これは私が一番嫌な事で、自分では絶対にしないと心に決めていることなのに。


「…あんたは、こいつの見た目以外の何に惹かれたというのだ?」

「は?」


いきなり斎藤君が彼に質問をする。
突然のことに戸惑っているようだ。


「こいつは犬派か?猫派か?」

「え?…なっ何言ってんだよ。」

「得意科目は国語か、数学か。しっかりしているのか、ぬけているのか。あんたは答えられるのか?」

「それは…。」

「見た目だけで選んでいるのはあんただ。自分のことを棚に上げて人に文句を言うな。少なくとも俺はあんたよりこいつのことを知っている。そしてこいつも…俺のことを知っている。」

「斎藤君…。」


相手に答える隙を与えないぐらい、勢いよく斎藤君が言葉を続ける。
そしてそれが全て…泣きそうなぐらい嬉しい言葉だった。


「それでもまだこいつに近づこうとするのなら、俺がいつでも相手になってやる。道場へ来い。ただし…手加減できる自信はない。」


うちの高校の剣道部でも一位、二位を争う斎藤君の腕前はみんな知っていることだった。

斎藤君の言葉を聞いて、彼はみるみる顔を青ざめていくと何も言わずに去って行った。

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