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自分の表情は覚えてないけれど、考えていたことは思い出した。
そうだ。確か左之兄に頬を触れられて。
だけど頭に浮かんだのは一で。


 「一だったらなって思った…。」


斎「何…?」


 「あ。…あっえっとあの!何でもないよ!ご飯食べよう!」


何を口走った!私!
一にしてほしいって言ってるみたいだ!

さっきから一がおかしいせいだよ!
だから私まで…。


話題を変えようと手を伸ばしたお弁当箱はさっと一に奪われ、さらに距離を詰められたから私と一の膝がぶつかる。


斎「俺だったら…と言ったか?」


 「いや…えっとですね…。」


斎「…名前。」


 「ん?」


名前を呼ばれたと同時に頬に温もり。
冷たい風が通り過ぎたというのに私の体温は一気に上がった。
顔が熱い。
絶対赤い。


斎「その顔だ。」


 「どの?」


斎「…俺の知らない顔があったんだな。」


少しだけ切なそうに一が笑った。
私もそんな顔知らない。
一はいつも冷静で表情もあまりなくて。
だけど時々笑う顔を私は知っている。
なのに。
今の顔は知らない。


 「一、私は…。」


斎「名前、俺は…。」


びっくりするぐらい同時に同じ言葉が出てきてお互いにそこで話すのをやめてしまう。
私が躊躇っていると一は真顔に戻り言葉を続けた。


斎「俺は、あんたが好きだ。」


 「え…。」


斎「ずっと前から。…好きだ。」


 「嘘だ。」


斎「嘘ではない。」


 「だって…だって…。」


私の一方通行だと思ってたのに。
どうして私の気持ちに気付いてくれないの!
この鈍感!馬鹿野郎って左之兄に愚痴っていたのに。


鈍感の馬鹿野郎は私だった。



斎「あんたの鈍さは重々承知していたがそろそろ限界だ。」


 「ちょっと!私だけ悪いみたいじゃない!私だってずっと好きだったのに!!!」


斎「っ!?」



いや、やっぱり鈍感の馬鹿野郎は一も一緒らしい。
一気に一の顔が赤くなり、明らかに動揺している。


斎「な…何を…。」


 「ずっと好きだったもん。小さい頃から…。一しか見てなかったのに。全然気づいてくれないし。それでいつも左之兄に相談してたの。」


斎「…そうだったのか。すまない。」


何だこれ。
何この勢いのある告白は。
ムードとかどこいった。
だけど、これが私達なのかな?


 「…好きだよ。一。」


斎「俺も好きだ。」


 「嬉しい!!!」


思わず抱きつくと一は石のように固まってしまう。昔はこんなこと普通だったのになんて思っていたら私を見ている青い目に気がついた。

斎「名前。」


 「ん?」


視線を少しずらして顔を赤らめて。
本当に本当に小さく一が呟いた。


斎「キスしてもいいだろうか?」


 「!!!それ…聞く!?」


斎「聞くべきではないと思っているがその…。」


拒絶されたら耐えられないとまた消えそうな声で言うから。


 「いいよ?」


そのままどちらからともなく目を閉じて、唇に温かい感触。
名残惜しそうに離れていく気配に目を開けると綺麗な瞳に自分の顔が映っていた。



やっと訪れた甘い空気を切り裂くように自分のお腹から音が漏れだした。


このタイミングで…!!!



斎「…くくっ。食べるか?」


こらえきれないとばかりに笑った一がお弁当箱を手に取った。


 「た…食べる!食べますよ!昼だもん!」


恥ずかしくて埋まりたい。
とりあえずお弁当箱を取り、蓋を開けると一が瞠目した。


斎「一人で作ったのか?」


 「当たり前じゃん!」


斎「ほら、名前。」


お箸で卵焼きをつまみ私の口元へ持ってくる。
何これ…まさか…あーんですか!?


 「え!?え!?」


斎「口を開けろ。」


だからムードとか!!
いや、贅沢言っている場合じゃない。
一がこんなことしてくれるなんてめったにないはずだから。

ゆっくりと口を開くとぽんと卵焼きを放り込まれる。


斎「昔はよくこうしていたな。」


 「そうだった?」


斎「名前は俺が食べているものを欲しがって一口くれとせがんでいたではないか。」


 「うっ…。」


そういえばそうだったかも。
一が食べているものは美味しそうに見えたんだよ。


 「はい、一。」


お返しに唐揚げを箸でつまみ一の口元に持っていく。
照れているのか視線を逸らして一瞬考えていたみたいだけどゆっくりと口を開けた。


斎「美味い。」


 「良かった!」


ふんわり優しく笑う一に胸がほんわかする。

幼なじみという変わらない関係が嫌だと思っていたけれど。
やっぱり嘘。
ずっとこのままでいたい。
一番近くにいる関係でいたい。


 「一。これからも一緒にいてね?」


斎「ああ。これからも今までと同じだ。ずっと一番近くにいる。」


そんな約束をして。
私たちは青空の下、二人でお弁当を食べていた。








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