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斎「名前。」


 「一!!!」


ドアの所に立っていたのは見慣れた手提げかばんを持った一だった。
あ、あれ私のお弁当。


 「何で…?」


斎「今日は俺の分の弁当も作ってきたから一緒に食べようと楽しそうに朝から俺に自慢をしてきたのはどこのどいつだ…?」


 「あ!」


そうだ。
今日は朝早く目が覚めたからはりきって自分の分と一の分のお弁当を手作りしてきたんだ。
上手にできたんだから!と登校中に散々一に伝えていたというのに。



…忘れてた。



斎「何かあるとすぐに左之…原田先生のところにくるからな。ほら、行くぞ。昼休みが終わってしまう。」



そう言うと一は机の上にあった私の答案を手提げに無造作に突っ込み、私の手をひいて部屋を出ていこうとした。



 「…あ!左之兄!ありがとう!」


原「おう。」


斎「失礼します。」



バタンと音を立ててドアが閉じる。一は私の手をひいたまま、何も言わずに中庭の方へ向かっていった。



 「一?」


斎「何だ。」


 「いや…何か怒ってる?」


斎「何故。」


絶対怒ってるじゃん。
怒ると口数がいつもより減って、声のトーンも下がるんだ。


 「ご…ご飯忘れててごめんって!」


斎「俺の怒っている原因がそれだとでも思っているのか?」


 「じゃあ何?」


冬の中庭には人が少ない。
今日は晴れているからまだ暖かさを感じるがほとんどの生徒は屋内でご飯を食べているだろう。
二人しかいない空間には慣れているけれど、怒っている一といるのは小さい頃から苦手だった。
大抵私が悪いんだけど、今は理由がわからない。



斎「あんたは、もっとよく考えてから行動しろ。」


 「え?だ…だから忘れててごめんってば。」


斎「そうではない。俺が言っているのは弁当を一緒に食べることを忘れたことではなく…。」


 「なく?」

ばつが悪そうに目を逸らして一は中庭のベンチに座りこんだ。
はあとため息をつくと掌で目元を覆っている。

おそるおそる隣に座り、間にお弁当の入った手提げかばんを置いた。


斎「教師とはいえ二人きりで会うのは…。」


 「え?先生と?会っちゃだめなの?」


斎「…言い方が悪かった。左之と二人になるなと言っている。」


一は高校に入学してから左之兄のことを原田先生と呼ぶようになった。が、私と話すときや外で左之兄と話すときは昔からの呼び方に戻るようだ。


 「何で??左之兄はお兄ちゃんみたいだから勉強教えてもらいやすいし。」


斎「何かあったらどうする!」


一の左手が私の右肩を掴んだ。
突然のことに体がびくりと反応する。
それを恐怖と捉えたのか一が思い切り手をひいた。


斎「…すまない。」


 「ううん、びっくりしただけだよ。それにしても一、変だよ。どうしたの?何かあったらって。」


左之兄と私が?
何かあるって?
あるわけないじゃん。お兄ちゃんみたいな存在なのに。
そして左之兄も妹にしか思ってないのに。


斎「さっき、左之に…。」


 「え?頭撫でられるのはいつものことだよ?」

そう告げると一は少し眉を顰めた。


斎「そうではない。頬を触れられて…。」




あんな顔をするのか?





と、小さくて小さくて消えてしまいそうな声が耳に何とか届いた。
あんな顔?私、どんな顔をしてたんだろう?

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