騒がしい居酒屋を出た後、私達は落ち着いた雰囲気のお店へ移動した。
ここは原田さんがよく行くお店らしい。
テーブル席に通された私たちはそれぞれ注文を終えると話の続きを始める。
沖「えーっと、なんだっけ?」
「だから、理想の相手はどんな人かって話です。」
―お酒と鈍さの相乗効果―
原「ああ、そういやそんな話だったな。」
隣に座っていた平助からビールを受け取った原田さんがそれに一口つけてから言葉をこぼす。
平助も考え込むようにビールを飲んでいた。
平「理想ねえ…。」
斎「…。」
居酒屋からこのお店へ移動してくる間、それぞれの理想のタイプを語ってきたのだ。
ものすごいイケメン達に囲まれているせいで店にくるまでの女の子たちの視線は痛かったが慣れてしまうもので私は彼らに溶け込んで会話をしていた。
と、いうのも誰ひとり私を女の子扱いしていないからかもしれない。
原田さんは優しいけれどそれはどの女性にでもそうであって特別私に優しいわけでもないし。
土方さんは男女平等に部下として厳しく扱うし。
平助は同期だからかまるで男友達のように私と会話してるし。
沖田さんに至っては男とか女とかじゃない。もっともからかいやすい相手として私をいじってくる。
斎藤さんは…あれ、斎藤さんはどうだろう。いつも優しくしてくれるけど口数が少ないからいまいちわかりづらいな。
沖「そうだね、理想かあ。うーん、落ち着いてて、可愛げがあって女の子らしいといいかな。」
「なんですか、沖田さん。私と正反対の人がタイプって言いたいんですか。」
沖「あれ、よくわかったね。」
「ちっ。」
沖「ん?先輩に舌打ちとかいい度胸してるじゃない。名前ちゃん。」
「いだだだだだ。」
土「やめとけ、総司。」
失敗した。沖田さんの隣に座るなんて本当に失敗した。
ぎりぎりと頬をつねるその力はとても女の子相手にするものではない。
土方さん、止めるなら本気で止めてくださ…あ、だめだ。土方さんもう半分潰れてる。
沖田さんの向かいにいる原田さんがやめておけと手を払ってくれたおかげで私の左頬がちぎれることは避けられた。
本当にありがとうございます。
平「俺はねーやっぱ可愛い子だよな!」
私の向かい側に座っている平助がポテトフライを指揮者のようにふって答えた。二件目なのにまだ食べるのか、この子は。
斎「可愛い…というのは容姿か?中身か?平助の言い方ではいまいち伝わらん。」
平「そりゃ見た目も可愛い方がいいけどさ、中身だよ中身!やっぱりふわふわした感じの子っていいよなー。」
「はいはい、そんな子は存在しませんよ。」
平「ええ!?」
原「っくく…まあ確かにそれも一理あるかもな。女はしたたかだからな。だまされるなよ、平助。」
平「そっそんなこと言われてもわかんねえって。」
沖「平助君はだまされて学習したほうがいいよ。」
平「ひでえよ、みんな。あ、土方さんは!?土方さ…。」
平助が隣の土方さんに問いかけて止まる。
そりゃそうだ。土方さん半分潰れてる。
目とかすわってて烏龍茶が入ったグラス握りしめて一時停止してるんだから。
斎「土方さん…?」
私の右隣から小さく、遠慮がちな斎藤さんの声がした。
土「なんだ…?」
おお、かろうじて応答あり。
でも土方さん、視線の先が斎藤さんじゃないです。
グラスの中の氷です。
沖「っ…土方さんの理想のタイプは?」
横から沖田さんの震える声。
もう笑いそうなんですね。良かったです、対角線に座らせて。
土「り…そう…?」
原「ああ、理想だよ。理想の女。」
土「…た…。」
「た?」
土「沢庵…。」
たくあん?
沢庵?
たくあ…ん???
斎「っ…。」
主・平「「ぎゃはははははは!!!」
原「こりゃだめだな。」
原田さんは呆れた顔して見てたけど私と平助は大爆笑。多分斎藤さんも横で震えてると思う。
あれ?珍しく沖田さんが静か…と思ったら。
沖「っ…最高ですよ、土方さん。」
とニヤニヤ笑いながら動画とってました。
この人本当に恐ろしいな。
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