土「名前、三時からの会議の準備をしておいてくれるか?」
「わかりました。」
土方部長に言われて時計を見ると二時半。
時間があまりないと判断した私は一度仕事の手を止めて会議室へ向かった。
テーブルと椅子をきちんと並べてホワイトボードを用意する。
「うん、マジックもちゃんとあるし…大丈夫かな。プロジェクターいるのかなぁ…。」
そんなことを考えながら会議室で一人立ちつくしているとガチャリとドアが開く音がした。
「え?一君?」
斎「俺も手伝おう。」
てっきり沖田君あたりが土方さんに言われて手伝いに来てくれたと思っていただけに一君の姿が見えてとても驚いた。
斎「午後の会議は名前さんの課と俺の課の合同の会議だから…。」
そう言いながらテーブルに書類を並べていく一君。私も半分受け取って並べ始める。
私が書類を置き終わった頃に一君はきちんとプロジェクターまで設置していて準備はあっという間に終わってしまった。
時計を見れば会議まであと十五分。
「もう他の準備は終わったの??」
一君の隣に立って少し上を見上げる。
そんなに背が高い一君じゃないからヒールをはくと目線が近い。
でもその距離が私は大好きだ。
斎「ああ。今日俺は議事録担当で発言はないから…。」
言いながら私を見た一君が少しだけ頬を赤らめた。
あ。
近い…かも。
そう思ったら言葉がでなくて、私達は見つめあってしまった。
多分時間にしたらほんの数秒なんだけどものすごく長い時間に感じて。
今日は一君といつもよりたくさん話せてるとか、近くにいられるとか、それが嬉しいとかいろんなことが頭をよぎった時に唇に熱を感じた。
「!」
斎「名前さん…。」
一瞬離れて、でもまた触れて。
ふらりと後ろによろめいた先は壁だった。
一君の左手がきゅっと私の腕を掴む。
そこでやっと私の頭が覚醒したらしい。
「はっ!一君!!!かか会議が!!!」
斎「まだ十五分ある。」
「いやいやいやいや、でも会社で…。」
公私混同はしないのでは?と目をキョロキョロさせながら告げると一君は少しだけ何か考えるように目を伏せてその後真っすぐに私を見てきた。
斎「公私混同…させてくれ。」
「え?」
斎「今だけ、名前さんを一人占めしたい。」
「っ!」
斎「総司や土方さんと話しているのも…他の人と話をしているのも、全て仕事のことだとわかってはいるのだ。だけど…。」
壁に手をつかれて逃げ場のない私に一君が言葉を落としてくる。
斎「できることなら見たくはない。それもあってあまり会社で話さないようにしていたが…箍が外れた。」
言葉が終わるともう一度キスがふってきて、私は思わず目を閉じた。
嬉しい。
だけど…だけどやっぱり会社だし!!!
「ん…一君!やっぱりその…。」
少しだけ一君の胸を押し返してみた。
すると一君は今まで見たことのないような少し意地悪な顔をして
――本気で嫌がらないと止めないが?
と言ったんだ。
「〜〜〜〜〜〜!?!?!?」
多分顔は真っ赤で頭から湯気が出てるんじゃないかしら?今の私。
口をぱくぱくさせている私を見て一君は満足したのか壁から手を離すと腕時計を見て、もう時間だなと呟く。
確かに時間を確認したら会議まであと七分。
そろそろ誰か来てもおかしくない。
真面目で少し奥手。
しっかり者で冷静。
そんな一君も本当の一君だけど。
今日はそうじゃない顔が見れてなんだか頭がパンクしそう。
会議室のドアに手をかけ、私はドキドキを必死に押さえて一君に言った。
「も…もう!やっぱり会社は今までどおり!!」
斎「何故!?」
「わわわわ私の心臓が持たないからです!今まで通りにしてね!?先輩命令だからね!」
斎「…わかりました。」
会議室を出ようとした時、でも時々は命令違反させてもらうと後ろから聞こえてきて私の顔はまた熱を持った。
ドアを開いた瞬間。
最高に嬉しそうな笑顔の沖田君が立っていて。
私達の熱が急降下したことは言うまでもない。
終
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