request | ナノ



手をつないだあの時から。

仕事中につい目で追うようになってしまった。

気がつくと総司に視線がいく。

机が斜め向かいということもあって、表情が良く見える。


・・・じゃない!

もう1か月も前の出来事を、私はなんで引きずっている!
これじゃまるで。

これじゃ・・まるで。

総司のこと・・

 (ないないないないないない!)

思わず頭を抱えた。

だって今更。
もう一緒にいて軽く2年はたってるよ。
ずっと仲良し同期だったんだもん。
アホなとこもすっぴんも見られてるよ。
素の自分さらけだしすぎだから!
女子としてみられてるわけない。


土「おい、名前。」

後ろから土方さんの声がした。

 「あ・・はい。」

土「お前調子悪いのか?」

 「え?」

土「頭抱えてるから。何かあったか?」

 「いえ!大丈夫です。」

土「そうか?あんまり無理すんなよ。」

 「ありがとうございます。」

そう言った瞬間、定時のチャイムが鳴った。

土「もうこんな時間か。」

 「あれ?土方さん、今日は早いですね。」

土「たまにはな。」

珍しく荷物をまとめている土方さん。
さてはデートですね。わかりやすいです。

総務のほうへ目をやれば千鶴もすごい勢いで荷物をまとめている。
そんな急がなくても・・でもほほえましいな。


あーあ。
なんか疲れた。
私もはやくかえ・・

 (し ま っ た。)

卓上カレンダーが今日締め切りの仕事があることを示していた。

 (ぎゃーーーーー!!!!)


一日勘違いしていた。
この仕事、まだ半分ぐらいしかやってない!

 (定時どころか・・3時間は残業だよ)

ふっかぁぁぁぁいため息をついて戦う覚悟をきめた。



カタカタカタカタ

響くのはキーボードをたたく音。

もう電気が付いているのは私の部署だけ。
一人、また一人と残業組も帰って行った。

 「よし・・終わった。」

データを保存し、パソコンをきる。

 「疲れた・・。」

肩をぐるぐるとまわし、時計に目をやるともう9時だった。

沖「お疲れ。」

 「わぁぁぁ!?」

沖「ちょっと、驚きすぎ。」

驚くわ!
誰もいないと思ってたら後ろから声がしたんだもん。
しかも。

総司だし。

あれ?そういえば総司の席にまだ荷物ある。
帰ってなかったんだ。

沖「違うフロアにいたんだよ。」

両手に飲み物。湯気が見えるし甘い香りがした。

沖「はい、ココア。お疲れ。」

 「ありがと!」

総司からココアを受け取り、一口飲む。
口の中が一気に甘くなって・・幸せ・・。

 「おいひ・・。」

沖「ほんとおいしそうな顔するね。」

 「だっておいしいんだもん。総司も残業してたんだね。」

沖「まぁ。それに・・。」

 「?」

沖「名前ちゃん一人置いて帰るわけにはいかないでしょ。」

 「!!!」

ズキュン
古いと言われようとこの表現が一番近いんだ。
何よそれ。

沖「入り口のセキュリティのかけかたわかる?」

 「・・・わかるわ!」

そこですかい。
どうせそんなことだろうと思ったけども!

でも最近、総司のたわいもない一挙一動に反応してしまう。
自分の良いように解釈してしまう。

これってやっぱり。

沖「うそうそ。心配だから。」

 「笑ってるじゃん!説得力ないし。」

沖「ほら、帰ろう。もう遅いし。」

笑いながら総司が席に戻った。帰る支度をしている。
私も慌てて荷物をまとめた。

会社から駅までは徒歩10分。
たいした距離じゃない。

今までは、何も考えなかった。
何も考えなくたって話すことはどんどんでてきていたはずなのに。

 (あれ?二人の時って何話してたっけ?)

言葉がでてこない。
何を話せばいいのかな?
こんなに気にする相手じゃないじゃない!

 「そう・・。」

沖「あ、信号かわる!走って!」

横断歩道を渡っていたらしい。
考えすぎて気づかなかった。

 (わっ!)

また総司に手をとられた。

あったかい。

総司って綺麗な手してるな・・。

だけど、大きくて男の人って感じで・・。

って変態か!私!!



信号を渡りきった。
もとのペースで歩きだす。
だけど。

手はそのまま。

 「そ・・総司?」

沖「ん?」

 「あの、手・・。」

沖「いや?」

 「え!?いやとかいやじゃないとか・・。」

総司は彼女でもない子と手つないでも何も思わないの?

手をつないだまま、総司が立ち止った。

 「総司って・・誰でも手とか・・。」

沖「誰でもはつながないよ。」

 「でも。」

つながれてるんですけど。いまだに。

見上げると総司は笑ってた。

沖「好きな人じゃなきゃつなぎたくないかな。」

 「・・・・!?」

総司。

それ、どんなふうに考えても

私のこと好きって言ってるようにしか聞こえないんだけど。

 「あの、それは、つまり・・。」

どこを見ていいかわからなくて目をきょろきょろさせてしまう。

沖「ん?」

 「えっと、だから、その。」

沖「好きだよ。」






――好きだよ






好きだよって言った!?

え?

好きなの!?

いつから!?

なんで!?




沖「名前ちゃん、真っ赤。可愛いね。」



 「かっ・・。」


可愛い!?

総司が可愛いとか言った?!

そんな糖度高めの言葉、その口から紡ぎだされることあるの!?

いつも飄々と土方さんに口げんかふっかけたりする口の悪い総司が??!!

私にだって「それ以上食べたら太るよ。」とか平気で言ってたじゃん・・。

なんで?


 「あの・・総司・・いつから・・。」

沖「いつからって、入社前から。」

 「は!?」

沖「面接一緒だったじゃない。」

 「そうだけど・・そんなに話してないじゃん。」

沖「覚えてる?あの時、名前ちゃんに筆記用具借りたんだよ。」

 「え・・。」

記憶を呼び覚ます。
よみがえれ、私の海馬。

・・残念でした。

沖「覚えてないよね。だって入社した時も最初僕のこと忘れてたじゃない。」

 「集団面接だったから・・。ごめん。」

沖「仕方ないけどね。でもあの時焦ってたから嬉しかった。」

 「そりゃ一緒に面接受ける仲間だし。」

沖「仲間というよりライバルでしょ、あの時は。放っておいてもよかったんだよ?」


そう言われると・・そうだけど。
お人よしなの?私。
いや、貸さないほうが人でなしだよ。



沖「その時からずっと、優しい子だなって思ってた。一緒にいる時間が増えていろんなとこ見てきて、さらに好きになった。」

 「さ・・さらに好きになる要素ございましたか?」

沖「・・。ぬけてるとこあるし、時々女子とは思えないはしゃぎっぷりを発揮するし、すっぴんも平気で見せてきたけど・・。」

 「それ以上言わないでー!!!」

沖「でも元気なところとか、がんばるところとか、良いところもたくさん見てきた。」

 「う・・。」

沖「ただ、名前ちゃん仕事に夢中だったし、僕も焦らなくていいかなーなんて思ってたんだけどさ。」

ゆっくりと総司の顔が近付いた。
覗き込むように見つめられる。
綺麗な翡翠色の目。

沖「最近視線感じるのは僕の自意識過剰?」

 「///!」

沖「反応が前までと違うのは気のせいなの?」


そそそそそれ以上追い詰めないでください!
白旗!
誰か白旗もってきてーーーー!

沖「はいはい、パニックにならない。つまりそれは肯定ってことだよね。」

 「そ・・総司?」

うまい言葉が見つからない。
そして総司との距離が近すぎる。
まともに見れない。

沖「好きだよ。名前ちゃん。」

 「ひっ!」

沖「ほら、逃げないの。」

人がパニックってるのにさらに言うか!
逃げるにも手つかまれてて逃げられないし。
いや、逃げるのもおかしいけど。

沖「名前ちゃんは?」

 「えっと・・その・・。」

沖「君の気持ちが知りたいんだけど。」


外だというのに人がいない。
車もまるでタイミングを合わせるかのように今は通らなかった。
静かすぎて自分の鼓動だけやけに大きく聞こえた。


 「多分・・好き。」

沖「多分?」

 「嘘です!好きです!」

あ。
好きって言っちゃった。
まぁでも・・好きだよね。どう考えても。

恥ずかしいけど顔をあげて総司を見た。

沖「良かった・・。」


今までで見た中で一番良い笑顔だった。


沖「僕が幸せにしてあげる。」

抱きしめられて
耳元でささやかれた。

もう。
容量オーバーですから。






近すぎて気がつかなかった。

こんなにも好きになれる人がいたなんて。

こんなにも好きになってくれる人がいるなんて。

これからはゆっくりと並んで歩いて行きたい。


大事にしよう、この近距離恋愛を。






次ページ おまけとあとがきとお詫び

prev / next

[目次]


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -