平「土方さーん。ちょっといい?」
開いていたふすまからひょっこり顔をのぞかせたのは平助だった。
土「平助、悪いが後にしてくれないか?今はちょっと・・。」
しかし、平助は部屋に入りふすまを閉めた。
真剣な顔で土方を見る。
平「山崎君が言ってた間者の件なんだけど。」
後にできるような話ではなかった。
土「・・座れ。」
平「うん。」
土「何か掴んだのか?」
平「掴んだ・・というか。」
平助は口をつぐむと目を机にやった。
平「あれってさ。土方さんがおえらいさん達に送る資料でしょ?最近ずっと仕事だよな。」
土「そうだが・・。平助、今はそれより間者だ。何かあるなら早く言え。」
平「そうだよな。うん。間者のことなんだけどさ。俺知ってるんだよね。正体。」
土「何?」
平「だってさ。それ、俺のことだもん。」
目の前の平助はいつもと同じ平助だ。
だけど笑顔で今こいつとんでもないこと言わなかったか?
土「・・・平助。冗談に聞こえる冗談を言え。いつもなら説教するところだが、今それどころじゃない。後でたっぷり説教してやるから今すぐ出ていけ。」
平「やだなー土方さん。冗談じゃないって。」
土「斬られてぇのか?」
平「それは困るし。俺も仕事あるから。今だ!山崎君!!!」
土「は?」
平助の合図と共に後ろに気配を感じる。
山「山崎流忍法!!!畳がえし!」
振り向くともう目の前に畳があった。
――ドン!
―――ズサァッ
思い切り畳が飛んできて後ろに倒れた。
平「山崎君、押さえて!」
わけもわからないうちに平助と山崎君に押さえつけられた。
土「おい!てめぇらどういうつもりだ!!」
山「どういうつもりもこういうつもりです。」
そう言うと慣れた手つきで後ろ手に手を縛られる。もたつきながら平助も足を縛った。
突然のことに思考が追いつかない。
土「てめぇら・・何をしてんのかわかってんのか?」
自由に動けない土方に笑みを浮かべながら見つめる二人。
平「悪いなぁ、土方さん。間者って俺たちのことなんだよね。」
山「ずいぶんと長い間、お世話になりました。」
――バサッ
着ていた羽織を脱ぐと全身黒ずくめの忍者の恰好になる二人。
山「俺達は忍者なのです。」
平「そうそう!ということで・・。この大事な資料いただいちゃうからな!」
そう言うと二人は机の上の資料を全て持ち、笑顔で部屋を去って行った。
土「・・・。」
突然の裏切りに動けなかった。
平助と山崎が間者?
忍者?どこの?
本当にあいつら裏切ったのか?
でも実際。
俺は縛られて資料も持っていかれた。
土「くそ・・おい!誰かいねぇか!?」
手も足も縛られていたら動くことができない。
早くしないとまんまと逃げられてしまう。
土「誰でもいい!おい!誰か!!!」
精一杯廊下に向かって叫んだ土方だった。
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