ダダダダダダダダ!
廊下を走る音が響き渡る。
鬼の副長の全速力。
土「新八―!千鶴どこいったー!!」
そう広い屯所ではないのに二人の姿はどこにもなかった。
仕方なく片っ端から部屋を開けようか考えていた時だった。
原「土方さん・・ちょっといいか?」
原田と名前の姿があった。
いつもならもっと大人しくいられねぇか!と怒鳴りつけたくなるぐらい賑やかな名前が俯いて黙っている。
原田の表情もどことなく暗い。
いつもと違う二人の表情に怒りがおさまった。
土「どうした?」
原「ここで話すのも・・土方さんの部屋いっていいか?」
土「わかった。」
とりあえず土方の部屋へ移動することになった。
部屋に入り、土方の前に二人が並んで座る。
「「「・・・。」」」
誰も口を開かない。
あまりの気まずさに思わず土方が口を開いた。
土「・・・おい、何があった。」
「・・ました。」
名前がやっと声を出した。
今までと違う、少し低く、震えた声だった。
「子供ができました。」
土「・・は?」
「子供ができたんです!!!!!」
土「はぁ!?!?」
土方は目の前の原田を睨みつける。
土「てめ・・何してやがる!」
原「おいおい、土方さん。怒る相手間違ってるぜ。」
原田はその怒りをさらりと流した。
土「どういうことだ?」
原「どういうことも何も、父親はあんただぜ?」
父親は・・
あんた・・だ?
土「・・・・・。」
原「・・・・・。」
「・・・・・。」
再び部屋に沈黙が訪れる。
それをやぶったのは名前だった。
「やっぱり覚えてないんだー!!!ひどい!」
土「ちょっちょ・・っと待て!説明しろ!」
原「土方さん本当に覚えてないのか?」
「ありえないー!信じられないー!」
いや、どう考えても覚えてない。
俺の記憶はいつ改竄されたんだ!?
だってこいつはまだきて三ヶ月ぐらいだぞ!
こんな短い間にそんなこと忘れるわけねぇだろ!
土「なんだ!未来人は会話しただけで子供できんのか!」
「そんなわけないでしょ!二ヶ月前・・。」
どうやら話を聞くと、二ヶ月前に幹部連中みんなで酒を飲んだ時のことらしい。
総司や新八に飲まされて・・。
土(・・・・記憶がねぇ。)
「ひどいです。土方さん・・。やっぱり覚えてないんですね。」
名前の目からはらはらと涙がこぼれおちる。それを横で原田がぬぐう。
原「土方さん、覚えてないじゃすまされねぇぜ。男なら責任とれよ。」
「・・いいです。原田さん。覚えてないのに父親になれなんて難しい話ですよ。大丈夫です・・私・・。」
原「大丈夫なわけねぇだろ!」
「っ・・。でも・・いいです!!!」
そう言うと名前は部屋を出ていってしまった。
原「おい!名前!・・土方さん、ちゃんと考えろよ!!!」
すぐに原田も部屋を出ていってしまった。
多分、追いかけて行ったんだろう。
本来なら俺が行くべきだ。
ただ。
いきなりのことで混乱している。
土(ちょっとまて・・。俺は本当に?)
確かに原田の言う通り、覚えてないも何もそれが事実なら責任はとるべきだ。
ただ。
あまりに突然すぎる。
土(どうしたもんかな・・。)
あいつは未来から来たんだ。
いつかいなくなるかもしれない。
それなのに。
いや。
それでも。
俺はどうしたい?
土「・・責任とるか。」
名前を追いかけようと立ち上がった時だった。
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