request | ナノ



斎藤さん・・。


斎藤さん・・・。


あなたに逢えて本当に良かった。


もしまた逢えたら・・


思いを伝えて。


もう一度あなたに触れたい・・。













暗い世界をふわふわ浮いているような感覚だった。

何も見えなくて。

でもなぜか暖かくて。

深い海の底にいるみたい。

あの綺麗な碧い海の底に。
















 「起きなさい!名前!!!!」



 「ぎゃーーー!?」




体に衝撃が走り強制的に目が開いた。


お母さんがこっちを見下ろしている。



 「まったくあんたは。下から何度呼んでも降りてこないし。もう夕方よ。起きなさい。」



 「え・・?あ、うん。」



 「それから、お隣さん挨拶にくるから降りてきなさい。」



そう言うとお母さんは部屋を出て行った。




 「夢・・夢・・。」



長い夢だった。
しかも。



 「幸せだぁぁぁ!」



だって斎藤さんと話してデートして!
最後切なかったけどでもでもでもでも!
あんなに鮮明な夢見るなんて。


私はウキウキしながらベッドから降りる。
早く下へいかないとお母さんの雷が落ちそうだ。



――カシャン


 「え?」



ベッドからおりた瞬間。
何かが床に落ちた。



動けなかった。



だって。





 「なんで・・かんざしが・・?」




思わず拾い上げる。


だってこれは。


夢じゃなかったの・・?







 「名前!!おりてらっしゃーい。」



お母さんの声で現実にひきもどされる。
思わずかんざしを握りしめたまま下へ降りた。


玄関をでたところに優しそうなおじさんとおばさんが立っていた。



 「あ、娘の名前です。ほら、挨拶しなさい。」


 「こんにちは。」



 「あら、こんにちは。今日から隣に引っ越してきました。うちにも同い年ぐらいの息子がいまして・・。」


 「あいつは何しているんだ?」


 「おかしいわね。お隣に挨拶にいくって言ったのに。」



 「もしよろしければお茶でも・・。」


 「そんな申し訳ないですわ。」


 「ほら、名前、息子さん呼んできてあげなさい。」



お母さんに半ば強引に家に入れられていくお隣さん。
もう、絶対迷惑だって・・。


仕方なく私はお隣さんのおうちへ向かう。
門までもう少しというところで声がした。



 「こら、大人しく家に入れ。」


男の子の声だ。
そして猫の声も聞こえる。


 「おい、名前!」


 「え!?」



自分の名前が呼ばれてびっくりした。
でも声の主は見当たらない。


もしかして・・。



 「名前、おりてこい。」


少し見上げると塀の上に猫がいた。
そんなに高い塀ではないけれど私の身長はかるくある。


 「君・・名前っていうの?私と一緒だ。」


猫に手を伸ばすと人懐こいのか私の腕に飛び込んできた。



 「名前!・・仕方ない・・。」



声の主は塀の向こうらしい。
猫をつれていってあげようかと門に向かおうとした時だった。





――ふわっ






男の子が塀を飛び越えてくる。



空中の彼と目が合った。



流れるような黒髪。



深い海のような紺碧の瞳。



夢の中で見た。



彼が降ってきた。









目の前に静かに着地する。



 「あ・・あの・・。」



斎藤さんだ・・。
髪も短いし、服装は着物じゃないけど。



 「猫・・あんたが捕まえてくれたのか。」



 「あ、はい。」



 「ありがとう。」



彼はそう言うと私の腕から猫をとりあげる。
持っていたゲージにいれた。


こんなに似ている人がいるんだ。



どこからどうみても斎藤さん。




 「そのかんざし・・。」



私の手に握られているかんざしを見つめている。
そんなに珍しいかな?



 「持っていてくれてたんだな。」



 「え?」




 「やっと会えた。」



そう言って微笑む彼は。
夢の中の斎藤さんだった。
優しく笑う斎藤さん。




 「探しにいくと・・言ったはずだが?」



嘘だ嘘だ嘘だ。
そんなことがあるわけ・・。



 「名前。」



 「斎藤さん・・。」



 「ハッピーバースデー。名前。」




次の瞬間は斎藤さんの腕の中だった。



顔をあげると。



頬を赤く染めて、やわらかい笑顔でこちらを見ている斎藤さんがいた。







次ページ あとがきと謝罪

prev / next

[目次]


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -