その後はもう夢のような時間だった。
あ、夢か。
近くにある神社やお寺を散歩したり。
私にとっては野菜や魚を売っているお店も珍しく見えて片っ端からお店のぞいたり。
斎藤さんは困ってたけど。
本屋さんもあったけど、文字は私にとってはミミズにしか見えないし。
芝居小屋みたいなものもあったけど外から見ているだけにしておいた。
多分見たところでよくわからないしね。
あと小間物屋っていうのかな?
かんざしとかおしろいとか置いてあるお店にも入った。
女の人が多くて、斎藤さん居づらそうだったけれど、私が夢中になって見ていたからだろう、ずっと横にいてくれた。
「綺麗ですね・・かんざし(つけかたわかんないけど)」
斎「あんたにはこれが似合いそうだ。」
「わ・・綺麗!」
斎藤さんが差し出したのは桜の飾りがついたかんざし。とても綺麗だけど・・。
お金もないし、買ったところですぐにつけられないしね。
「あ、斎藤さん、あっちのお店もいってみたい!」
そう言って斎藤さんをひっぱりだし、次のお店へと向かった。
その後も私は斎藤さんに案内されるというよりも斎藤さんを連れまわし、京都の町を歩きまくった。
気が付いたら日がだいぶ傾いてきていた。
斎「楽しかったか?」
近くの神社の石段に座っていた。
歩き疲れて休憩していたのだ。
「はい!とっても。幸せな誕生日でした。」
斎「もうすぐ暗くなる。その前に家に帰れ。」
「そう・・ですね。」
斎「・・俺でよければ・・その・・。」
斎藤さんの声が小さくてよく聞こえない。
気まずそうに目をそらし、何かぶつぶつ言っている。
「なんですか?」
斎「屯所に来てくれれば・・。俺でよければまた京の町を案内しよう。」
「斎藤さん・・。」
めちゃめちゃ嬉しいです。
もう何もいらない。
斎「また、会えるだろうか?」
綺麗な綺麗な碧い目。
夕日にてらされても色あせることないその色に吸い込まれそうになる。
「会いたい・・。」
するりと言葉がでてきた。
斎「そうか。良かった。」
会いたい。
会いたい。
良かったと、本当に心からそう言ってくれているのが伝わる優しい笑顔のあなたに。
いつでも・・
君に逢えたら。
願っても叶うわけないのに。
斎「名前、これを受け取ってくれるだろうか?」
「これ・・。」
斎藤さんの手には桜のかんざし。
さっきお店で見ていたものだ。
いつの間に買ってくれていたんだろう?
斎「ハッピーバースデー。名前。」
「斎藤さん・・。」
斎「このように言うのだろう?」
「そう・・です・・。」
視界がぼやけた。
嬉しすぎて涙がでるなんて生まれて初めてだ。
掌がぼやけて見える。
涙をふかなきゃと目をゴシゴシこすった。
「あ・・れ?」
なんどこすっても。
手や腕がぼやけてみえる。
私の体に霞がかかったような。
もしかして。
夢からさめる?
斎「名前・・。」
多分斎藤さんの目にもそう見えるんだ。
目を丸くして私を見ている。
「斎藤さん・・私。」
消える前に伝えたい。
「私、150年ぐらい先の未来からきました。」
斎「未来?何を言って・・。」
「信じてもらえないかもしれないけど。ずっと未来の日本からきたの。新撰組のことよく知ってるし、何より斎藤さんのことが大好きでした。」
斎「名前・・お前・・体が・・。」
足元がもう消えている。
段々したから消えていくようで。
まるで幽霊みたいだななんて暢気に考えている自分もいた。
「だけど、実際のあなたに会えて本当によかった。人生で一番幸せな誕生日を過ごせました。もっともっと斎藤さんが好きになりました。」
斎「名前・・俺は・・お前が・・。」
「斎藤さん・・。」
斎「お前がこの時代の人間ではないというのなら。未来の人間だというのなら。俺は、生まれ変わってお前を探しに行く。」
「斎藤さん!」
斎「だから・・待っててくれ・・。」
斎藤さんの伸ばした手に触れようとした。
でも、私の手は届くことなく消え。
斎藤さんの切なそうな表情も見えなくなった。
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