今のキスで。
薫のさっきの告白はお芝居でもおふざけでもないということがわかった。
薫「なぁ、王子様。俺のこと好き?」
唇は放してくれたけど肩に置かれている手はそのまま。本当に目の前に薫の顔があってまっすぐ前が見れない。
「し・・シンデレラはそんな言い方しないし!」
薫「現代版シンデレラだったらこれぐらい肉食かもしれないだろ。ほら、ちゃんと言ってよ王子様。好き?」
少し目を細め、勝ち誇ったかのように笑う顔も可愛いからずるい。
「す・・すき・・・。」
ほぼ消えかかっているぐらい小さい声で呟いた。
でも目の前の薫にはしっかり届いたようで。
薫「今の男は消極的な奴が多いから、現代版王子はそんな感じかもな。」
そんなことを言って笑ってくれた。
薫「俺は消極的じゃないからどんどん言いたいこと言うけど。好きだよ、名前。」
「はっ恥ずかしいから!ってか一回離れてー!!」
薫「なんで離れる必要があるわけ?他に誰もいないからいいじゃん。」
「誰もいないから離れてー!!!!」
そんなこんなでぎゃーぎゃー騒いだ後、私達は教室を後にした。
薫にしっかり手を握られて家まで送られて。
文化祭当日。
薫のひらめきで台本の最後の部分を変更することになった。
現代版シンデレラというものに。
薫「王子様。私魔法がきれてボロボロの服になるけど・・気にしませんよね?」
見事に美少女に変身した薫が綺麗な笑顔で斎藤王子に告げる。
でもその目は決して笑ってなくて・・どことなく怖い感じ?
斎「あ・・あぁ。」
薫「よかった。魔法使いさん、12時に魔法が切れちゃうって言うから。王子様、私をお嫁さんにしてください!」
斎「よ・・よろしく頼む。」
ぐいぐいと押しの強い肉食姫に草食王子が押されてそのまま結婚。
ガラスの靴は使われることもなく。
そのままボロボロの服装になってもシンデレラは王子様と一緒にいました。
めでたしめでたし。
全然女口調にならない継母沖田と姉山崎や、魔法使いに見えない魔法使い平助、美人だけど気の強いシンデレラ薫に押されるまま結婚を決めてしまうヘタレ王子斎藤。
こんなへんてこなキャストと今時っぽい物語は意外とお客にうけてたくさんの拍手を受け、特別賞までいただいた。
特別賞の商品はカラオケのサービス券だったらしく、うちのクラスの打ち上げは自然とカラオケに決まった。
薫「名前用意できた?そろそろカラオケに移動するけど。」
教室の片付けも終了し、みんなも荷物をまとめて移動し始めているところだった。
「うん。大丈夫。いこっか?」
昨日から恋人同士。
好きって言葉を交わしただけでこんなにも空気は変わるものなんだ。
薫の笑顔が優しく見えるし、一挙一動にドキドキしてしまう。
でもそれが心地いい。
カラオケに向かう道。
目の前に斎藤君がクラスメイトと歩いているのが見えた。
「そう言えば・・なんで昨日斎藤君がでてきたの?」
薫「?」
「あの・・告白してくれたときに・・。」
薫「あぁ。え?わかんないの?」
「うん。」
頷くと薫は目を丸くした。が、すぐに閉じて額に手を当てる。
薫「・・哀れ斎藤。思いは一ミリも届かない。」
「どういうこと?」
薫「お前のこと好きなんだよ。」
「・・・・・・。まっさかー。」
いつもの冗談でしょと言うと薫の顔がさらに斎藤君への哀れみの表情に変化していく。
薫「ま、そんな鈍感な所も俺は好きだけどね。」
そう言うと薫は私の頬に軽くキスをした。
「か・・かかか・・薫!///」
思わず立ち止まって薫に叫んだ。
しかし全く悪びれた様子もなくこちらを覗き込んでくる。
薫「あれ?それぐらいで赤くなってたらどうするの。」
「どうって、どうもしません!」
薫「カラオケ。もちろん途中で抜け出すよね。」
「へ?」
薫「その後はどこデートしよっか。ほっぺにチューだけで満足しないからね、俺。」
「え・・え・・!?」
意地悪な笑顔で告げられた。
私はずっとこの意地悪なお姫様に振り回されることになりそうで。
しかもそれが幸せだと思ってしまいそうで。
なんともいえない気持ちを抱えて歩きだすのであった。
終
nextあとがき、お詫び
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