シンデレラなんて誰でも知っている内容で監督といってもすることはほとんどない。
本番に感情だけこめてさえくれれば大きな失敗はないと思われた。
ま、それが一番難しいんだけど。
学「よーし。明日は本番だよ。みんな今日はもう帰ってゆっくり休んでください。」
学級委員の一声でみんな帰り仕度を始めた。
私も同様だった。
もうすっかり日も暮れて来てあと数十分で暗くなってしまうだろう。そうなる前に帰りたい。
斎「名字。」
気がつくと横に斎藤君が立っていた。
「どうしたの?」
斎「いや・・その。」
斎藤君が少し言いにくそうに口を開いた。
斎「あれから、何もないか?」
私が斎藤君のファンに絡まれたことは心配した千鶴ちゃんによって本人に告げられた。
まぁ斎藤君には何の非もないんだけどね。
でも千鶴ちゃんが言ってくれたおかげで斎藤君も私と話すときは周りを見てくれるようになった。申し訳ないよね、ほんと。
「ないよ。大丈夫!それに斎藤君が悪いわけじゃないんだから気にしないでよ。」
笑って返したのに斎藤君はまだ心配そうな顔をしている。
斎「その。もし迷惑でなければ。一緒に・・。」
薫「ねぇ名前。ちょっと付き合ってよ。」
斎藤君の言葉にかぶせるように薫が横から会話に加わってきた。
「?どこに?」
薫「あ、斎藤。ごめん、何か話してた?」
斎「・・・いや。何でもない。明日はよろしくな。」
薫「あぁ。よろしく。」
そう言うと斎藤君は小さく微笑んで教室を後にした。
あれ?何か言いかけてたような・・・。
ま、いっか。
薫に言われてどこへ行くのかと思えば。薫は席に着いたまま動かない。不思議に思いながらも私は一緒に教室に残っていた。
クラス全員が帰った後、夕日の差し込むオレンジ色の教室に薫と二人きり。
今更だけどなんか・・ドキドキする!?
「あの、薫。どうしたの?」
薫「練習。もう少し付き合ってよ。」
「練習?」
薫「感情こめろっていったのは監督でしょ。監督が居れば練習はできるはずだろ?」
「まぁ・・うん。付き合うけど。」
意外だった。
薫が残ってまで練習するなんて。
そして私達は練習を始めた。
シンデレラ以外のセリフを言って動きも練習する。一応みんなの動きやセリフは頭に入っているから問題なかった。
平助より可愛い魔法使いになれている自信はあるね。
薫「あぁ、もうこんな時間。帰らなきゃ。」
そう言って薫演じるシンデレラが私(王子代理)に背をむけて走り出す。
「待って。あなたのお名前は・・。」
薫「ごめんなさい。帰らなきゃ。」
そう言って薫は走り出し、ガラスの靴を落としてわきにはけていくはず・・なのに。
薫は背を向けて立ち止ったまま。
「薫?」
薫「王子様が待ってって言ったから待ってるんだよ。」
くるっと振り向いた薫は本当にそこら辺にいる女の子より可愛い笑顔だった。
本当にお姫様みたい。
「あの、薫、ここはガラスの靴を・・。」
薫「おかしな話だと思わない?」
「何が?」
薫「シンデレラもさ。魔法がとけてもいいからその場にいて、思いを伝えればよかったのにさ。」
「薫・・それ言ったら物語にならないじゃない。それにボロボロの服で告白なんてつらいよ、女の子には。」
薫「見た目や服装なんかで決めるような男なんてこっちから願い下げって言ってやれよ。」
「それは・・。」
なんとなく。
前に好きだった先輩を思い出す。
薫はきっと先輩のことを言ってるんだ。
薫「王子が本当にいい男だったら。そんなこと気にしないんだよ。本当に好きなら相手がどんな格好でも好きなんだ。」
薫が何を言いたいかわからなくて私は眉をよせる。
薫「ねぇ、王子様。私はもうすぐ魔法がきれます。でも私を選んでくれますか?」
いきなり劇のような言葉遣いと動きで薫がこちらに歩いてくる。
すぐに私の目の前に来た。
ち・・近い!
「え?あ・・あの。」
薫「魔法が切れると私は変わってしまいます。好きな人にはとーーーーーっても意地悪したくなるし、口も悪いし、多分泣かせることもあると思います。」
「え・・?シンデレラが?」
そう言うと薫が私の肩に手を置いた。
薫「こっちはずっと好きだったのに人の気もしらないでくだらない先輩なんかと付き合ってすぐに振られて泣いているようなあなたに、斎藤のように優しくしてあげれるかわからないし、あなたの望みを全部満たせるかもわかりません。」
ん?
今なんて?
好き?
先輩にふられたって私?
なんで斎藤君がでてくるの?
薫「だけど、私はあなたが好きです。」
私のことが?
好き・・?
相変わらずのシンデレラの口調だけど。
これは・・私に言ってるの?
薫「ほら、王子様。姫が告白してるんだからちゃんと答えなよ。」
「え!?あ・・あの。私も・・・好き?です。」
薫「なんで疑問形なのさ。」
薫が不機嫌な顔になる。
「だって・・あの・・。」
これお芝居?
どこまで本気?
私があわあわしていると薫がふぅとため息をついた。そしてそのまま肩にのっていた薫の手が私を思い切りひっぱった。
「・・んっ!」
目を閉じる暇もなかった。
思い切り引っ張られ、そのまま声は唇に吸収された。
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