どうにか一度彼女を振り回してみたい。
もちろん、傷つけるようなことではなくて、彼女が幸せになれるような何か。
何かないかな?
僕の思った通りの反応をしてほしい。
原「で、なんだ。話って。」
沖「左之さん、彼女と仲直りしました?」
週明けの月曜日。
会社の休憩所に左之さんを呼びだした。
そもそも先週の急な飲み会は左之さんの彼女が左之さんとケンカしたことが原因で開催されたんだよね。
原「おかげさまでな。」
沖「それは何より。」
原「お前は最近どうなんだ?名前ちゃんとはうまくいってんのか?」
沖「うん。順調だよ。」
原「お前が続くなんて珍しいな。今度会わせろよ、名前ちゃん。」
沖「だめだよ、左之さん手だしちゃうから。」
原「誰が人の女に手だすか。俺にはもう最高の女がいるからな。」
こういうことさらっと言えちゃうのが左之さんだよね。他の人だったら絶対似合わないよ。
沖「左之さんさぁ・・思い通りにならないことある?恋愛で。」
原「思い通り?」
沖「今までさ、恋愛ってそんなに難しいものだと思ってなかったんだよね。自分の思った通りに事が進むことも多かったし。相手の行動もよめちゃうっていうか。」
左之さんは黙ってコーヒーに口をつけた。
目で続けろと訴えてくる。
沖「でも彼女は僕が予想することと違う反応するから調子狂うんだよ。人の汚い部分がまるでないみたいで。で、いつの間にか僕の方が彼女のことばかり考えちゃってるんだよね・・。」
原「お前・・けっこう本気だな。」
沖「けっこうじゃなくて本気だよ。」
原「へぇ・・総司がねぇ。」
なんかニヤニヤされている気がしたからあえて左之さんのほうは見ないで僕も缶コーヒーをあけた。
原「俺も今似たような状況だぞ。」
沖「左之さんが?」
原「あぁ。あいつもあんなんだからな。振り回されっぱなしだ。こんなに女で悩んだことはねぇ。」
沖「すごいね、左之さんにそこまで言わせるとは。」
原「むしろあいつの思い通りに事がすすんでるな、俺達の関係は。」
沖「あははっ。左之さんもう尻に敷かれてるの?」
原「でもなぁ、総司。」
左之さんは飲み終わった缶をゴミ箱に投げる。
綺麗な弧を描いて缶はゴミ箱へ吸い込まれていった。
原「あいつが笑ってるのが嬉しいからよ。それでいいって今は思ってる。俺は幸せだからな。」
そっか。
そうだよね。
沖「左之さんって大人だね。」
原「そうか?」
沖「僕も、そのことに今気付いたよ。ちょっと振り回してみたいとか思ったけど。振り回されている今の状態も悪くないかな。あの子が笑ってくれてれば。」
原「総司、一つだけいい方法あるぞ。思い切り驚かせて、泣くかもしれなくてだけど最後に喜ぶ振り回し方。」
沖「え?何それ。」
原「ちなみに俺の場合がそうだった。驚いて泣いて笑ったぞ。」
沖「・・・・・え?左之さんもしかして。」
言葉にするまでもなく表情を見て僕の考えが正解だということに気がつく。
沖「そっか・・・いいね、それ。」
原「ま、がんばれや。そろそろ戻るわ。新八に怒られちまう。」
沖「うん、ありがとう。左之さん。」
ひらひらと手をふって去っていく後姿もかっこいいよ、左之さん。
僕も、少し大人にならないとね。
まずは・・準備しなきゃな。
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