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このよくわからないもどかしさは何だ?



ずっと気分が悪い。




あの日から。




あいつと最後に話したあの日から。




















俺の世界に突然現れたかと思えば。
ものすごい速度で踏み込んできた。
何一つ俺のことを知らない癖に。


そう思っていたら、突然。
今までのことが嘘みたいに近づいてこなくなった。
清々したんだ。これで今まで通り、本来の目的を達成できると思っていた。


だけど。
巡察しているあいつを目で追っている。
そんな自分に嫌気がさした。


そして。
女の格好をして目の前にまた現れた。
なんなんだよ。
もう、俺のこと振り回すなよ。


―裏切るくせに。


俺がそう言った瞬間のあいつの顔。


あの顔を見てからだ。
ずっと苦しい。




俺はただ・・。




居場所がほしいだけなのに。





























商人「新選組だ。」






考え事をしていて全く気がつかなかった。
足があいつらの巡察経路に向いていることに。
すぐ横を歩いていた商人の言葉で我にかえる。






 「名前・・。」




どうかしてる。
千鶴より先に目に入るなんて。






視線が合った。








あいつが口を開きかける前に。







踵を返して走り出した。
久しぶりの女装姿は走りづらいことこの上ない。





どうして俺が逃げるようなことをしなくちゃいけないんだよ!?
別に何も悪いことなんて・・。









急いで曲がり角を曲がる。
さらに走りだそうとした時に誰かにぶつかった。







浪士「いてっ・・なんだお前。」




薫「ちっ・・。」




浪士「可愛いお嬢さんがそんなに急いでどこに行くんだよ。ちょっと俺に付き合えよ。」



薫「はなせっ!今急いでるんだ!」



浪士「おいおい、ぶつかってきたのはそっちだろう?謝罪の一つや二つ、言ってくれてもいいんじゃねえか?」



腰の刀に手をかけ、ニヤニヤしてくる男に殺意を覚える。
脅しているつもりなんだろうけど、生憎俺は男なんだよ!



強行突破しようとした時。





浪士「ぐっ!」




目の前の男からくぐもった声が漏れた。
ゆっくりと膝からおちていく浪士の向こう側に。





 「薫・・大丈夫?」





名前がいた。
わざわざ周りこんできたのか?





薫「お前・・。」





 「あ、峰打ちだよ?」





薫「そんなことは聞いてない。」






名前は刀を鞘に収め、男を道の脇へどけると俺の前に立った。





薫「なんで・・追いかけてきたんだよ。」





 「だって。薫が好きだから。」





――好きだから。







散々嫁にするだのなんだの言われていた。
だけど好きという言葉は初めてだ。






 「あれから考えたの。私は鬼にはなれない。どうしたって人間なの。薫の嫌いな人間。」





薫「・・。」






名前はいつもみたいにふざけた様子もなく、ただ真っすぐ俺を見てきた。






 「だけど。薫の言葉もわかるし、表情も見える。歩み寄れるって信じてるの。」







目をそらせなかった。







 「鬼とか人とか関係なく、薫がいい。」







薫「お前、何でそんなこと言うんだよ・・。」






視界がぼやけかけた。








揺らぐじゃないか。







俺と違って幸せに生きてきた大嫌いな妹を苦しめることも。


自分の一族を復興させることも。


俺が今までしてきたこと、信じてきたこと。


全てどうでもいいことで。



お前といたら。
もっと簡単に俺の欲しかったものが手に入るんじゃないかって。







居場所ができるんじゃないかって。









薫「お前がいると。」



 「?」



薫「今までの俺を否定することにな・・。」




名前は俺の口元に人差し指を出した。
それ以上話すなと言わんばかりに。
綺麗に微笑みながら。





 「今までを否定なんてしないで。」




薫「え?」




 「誰だって毎日考えは変わるから。でもそれまでの自分が間違っているわけじゃない。ただ、今の自分が新しくなっただけ。」




薫「なんだよ・・それ。」





 「だって私も。」




薫「お前も?」

















 「朝までは絶対お饅頭食べると思ってたけど今はかりんとうが食べたいと思ってる!」







薫「・・・・・・・は?」








 「だから、今から買いに行く薫も行こう!」



薫「はぁ!?お・・おいお前巡察中・・。」



ぐいと腕を掴まれ、引っ張られるように歩き始めた。
なんなんだ、こいつは相変わらず!




薫「お前ふざけるなよ!俺は真剣に・・。」




 「真剣に考えてくれるようになったんですね。私のこと。」




薫「っ・・//」



 「一緒にお茶しながらゆっくり話しましょう。幸い今の私達なら微笑ましい恋仲の逢引きに見えますので。」




ニヤリと笑うその顔がいつもと違って見えた。
これじゃ完全にこいつの思い通りじゃないか。





でもそれを嫌だと思えない自分に軽く眩暈を覚えながら。
俺は甘味屋までの道を腕を引かれて歩くことになる。






覚えてろよ。
いつかお前のその余裕な顔を。
赤く慌てる顔に変えてやるからな。











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