あの後。
薫は我に返ると私を突き飛ばした。
薫「俺は男だ!」
「はい、知ってます。千鶴のお兄さんでしょ?」
薫「そういう趣味はない!」
「どういう?」
薫「男同士なんておかしいだろ!?」
千「薫、名前ちゃんは女の子だよ?」
薫「はぁ!?こいつが!?」
「ほら、問題ないない。」
薫「問題しかないだろ!」
沖「名前ちゃん、趣味悪いね。」
「沖田さんには言われたくないです、なんとなく。」
沖「どういう意味?」
「というわけで薫、私のお嫁さんになってよ。」
沖「組長無視するとかいい度胸だよね。」
薫「無理に決まってるだろう!お前おかしいんじゃないか?」
一歩一歩と後ろへ下がる薫を、同じように一歩一歩追いかける。
薫「っ・・千鶴!また来るからな!」
そう言って彼は走り去って行った。
残された私たちはしばらくその姿を見ていたけれど、巡察を再開した。
千「名前ちゃん、薫が好きなの?」
驚いたような戸惑ったような表情で千鶴が聞いてくる。
「うん。なんかこう・・ピンときた。」
沖「ふーん。君、物好きだよね。」
千鶴のことを好きな沖田さんには言われたくないんですけど。
顔の好みが似ているって感じで嫌なんですけど。
「また会えるかな。」
千「た・・多分。だけどね、薫は・・その・・。」
「ん?」
千「人間が嫌いだから・・。」
千鶴は自分達の生い立ちについて話してくれた。
それじゃ薫は人間を嫌いになってもおかしくない。
だけど。
「でも千鶴は人間嫌いじゃないじゃん。」
千「私は自分のこと鬼だと思っていなかったから。」
「でも、今は知ってるでしょ?だけど人間嫌いになれないでしょ?だから大丈夫!」
沖「良いようにしか考えられないその性格がうらやましいなぁ。ほんとうに。」
横から流れてきた厭味は聞こえないことにした。
それからというもの。
私は巡察の度に薫を探すようになった。
千鶴がいないと難しいかなと思ったけれど。
意外と町で見つけることが出来て。
見つける度に話しかけた。
そして、いつも。
逃げられる。
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