いつもの居酒屋で個室に通されると僕達はとりあえず乾杯する。
「っ!!うめええ!やっぱこれがないとやってられないよなー。」
「おいおい、平助。今日はただ飲みにきたわけじゃないんだぞ?」
「わかってるってー。土方さんと名前をくっつける作戦会議だろ?」
ビールをジョッキの半分ほど一気に飲み干した平助に左之さんが笑いながら窘める。とはいえ左之さんももう半分飲みほしてるじゃない。
「今日も一日イライラしちゃったよ。なんでくっつかないのかな?」
「総司に言われて俺も観察していたが…確かに疑問だな。」
あれ。珍しいね。一君が僕の意見に賛成するなんてさ。
「土方さんも名前もどちらも異性に人気があるのに当人達は気付いていない。いろいろな邪魔が入って落ち着かん。」
「そうそう。ライバルはたくさんいるのにあの二人のんびりしてるから。土方さんが悪いんだよ。さっさと告白しないと名前ちゃんを誰かにとられても仕方ないね。」
「まあ…確かに見てるこっちはハラハラさせられるな。」
「しかもさー。あの二人仲が良いんだか悪いんだか、よくケンカもしてるよな。」
そうそう。ケンカするほどなんとやら…なんだろうけど、よく言い合ってるんだよね。
あの土方さんに堂々と言えるのは彼女ぐらいだし、そこが土方さんも気に言ってるんだろうけど。
「お互い意地っ張りで素直になれないだけでしょ。」
「だから、俺達がなんとかしてやるんじゃねえか。」
「あ!俺良いこと聞いたんだよねー!!」
平助が目の前の唐揚げを美味しそうに食べながら手をあげる。
「平助、言う前にハードルを上げてしまうのはやめろといつも言っているだろう。」
「ちょっと一君。俺がいつもつまんない話してるみたいじゃん。違うってー!今日はちゃんと情報を仕入れてきたの。」
「情報だあ?何だよ、言ってみろ。」
「へへっ。それがさ、名前って今週末誕生日らしいんだ!」
誕生日?
へえ…それは何か使えそうじゃない。
「誕生日か。いいな。土方さんに祝わせて…。」
「ついでに告白させればいいじゃない。うん、それがいい。」
僕と左之さんは顔を見合わせて笑う。
平助もうんうんと頷いていた。
「…だが、どうするのだ?」
「へ?」
一君が静かに冷奴と戦いながら呟いた。綺麗に箸で切られていく豆腐は崩れることなく一君の口に運ばれていく。
「どうやって祝わせるのだ。土方さんは彼女の誕生日を知っているのだろうか?知っていたとして…休日に彼女を祝うだろうか。」
確かに。
あの土方さんがわざわざ休日にお祝いしようって思うかといわれると疑問だよね。まだ付き合ってるわけじゃないし。
「いや…でも誕生日らしいって情報を流してやれば気にするだろう。」
「そうだね。あとは無理やりにでも二人を連れだせばいいんじゃない?」
「よし、そうと決まったら計画たてちゃおうぜ!!」
「おう!!」
そこから僕達は飲むのも忘れて週末の予定をたてた。
自分達が直接関わらないのにどうしてこんなにもおもしろ…あ、楽しいんだろう。
土方さんを思う存分いじれるからだろうけど。
まぁ、あの二人がくっついてくれれば僕らのイライラも消えるだろうし、二人も幸せになるんだったら…いいよね。
翌日。
僕と一君で報告書を土方さんのデスクに届けた時のことだった。
「土方さん、今週末あいてます?あいてますよね?」
「は?何だいきなり。」
「実は、名前が今週末誕生日だそうで、俺達でサプライズパーティを計画しているんです。」
名前ちゃんの予定はもうすでに押さえていた。左之さんと平助がうまく誘いだしてくれたらしい。みんなで土方さんの家で飲むとかなんとか…。
「土方さんも一緒にお祝いしてくれますよね?」
「…なんでお前らがそんなことを企画するんだ?」
ああ。怪しんでる。
僕一人じゃ完全に疑われると思ってわざわざ一君と言いにきたのにさ。
「同僚をお祝いすることがそんなに不思議ですかー?別に嫌なら土方さんは不参加でもいいですけど。」
僕の発言に一君が一瞬眉を顰めたがそのまま黙っていた。
わかってるじゃない。だって土方さんは僕がこう言えば…
「誰が行かねえって言った。後で予定をメールしてくれ。二人とも仕事に戻れ。」
そう言ってパソコンに目を戻した土方さんを見て僕と一君は心の中でガッツポーズをしたと思う。
自分達の席に戻る時、左之さんや平助と目が合ったから大丈夫と口の動きで告げた。
二人は笑うとそのまま仕事に戻る。
僕と一君も席につくと目の前の仕事にとりかかった。
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