次の日。
名字のことも。
総司のことも。
まともに見ることができなかった。
自分がどう過ごしていたかわからないうちに放課後がやってくる。
「平助君・・?」
後ろから声がした。
もう間違えるはずもない名字の声。
俺の一番好きな声。
平「・・・。」
ゆっくり振り向くと名字が鞄を持って立っていた。
「あの・・今日、どこか行くんだよね?」
少しためらいがちに言う。
いいのかよ。
総司に怒られないわけ?
それとも俺なんかじゃ、総司は相手にならないって思ってんのか?
平「いや・・いい。」
「え?」
平「ごめん。俺気がつかなくて。総司と付き合ってるんだよな?」
「平助君??」
平「なのに、放課後三人で勉強なんかして。完全に俺、邪魔だったよな。二人とも言ってくれればいいのにさ。」
「あの・・平助君?」
平「俺にかまうなよ、総司に怒られるぞ。」
そう言って俺は立ちあがり、教室を出て行った。
最低だ。
名字は何も悪くないのに。
こんなのただの八つ当たりだよ。
そのまま帰る気にもなれなくて。
俺は誰もいない部室にいた。
部活の再開は明日からで。
今日までが休みだった。だから・・名字とどこか行きたかったのに。
沖「やっぱりここにいた。」
平「総司・・。」
ドアが開いた音がして、目をやると総司が立っていた。
そのまま部室に入ってきて椅子に座る。
向かい合う形になった。
平「何だよ・・。」
沖「別に一人で何思うと勝手だけどさ。名前ちゃん悲しませるようなこと言うのやめてくれない?」
平「・・別にそんなつもりねえよ。」
沖「そうかな?」
平「それより、付き合ってるんだろ?おめでと。」
沖「???付き合う?」
平「昨日見た。二人で買い物行ってたじゃん。楽しそうにさ。付き合ってるんじゃないの?」
沖「・・・・ふーん。それで妬いてあんなこと言ったの。」
平「っ・・。」
沖「泣きそうだったよ。名前ちゃん。」
泣きそう・・?
なんで名字が泣きそうなんだよ。
沖「ひどいんだよねー名前ちゃんって。僕がやんわり思いを伝えても全然通じないしさ。」
平「へ?」
沖「それどころか、放課後、平助君が席をたつと平助君のことしか喋らないんだよ?」
平「え?・・え??」
沖「僕と二人きりのときは君の話ばかり。どんだけ平助君のことが好きなんだろうね。」
意味がわからない。
総司はため息つきながら話し続ける。
沖「昨日買い物をしたのもさ、君に何か買いたいからって僕が付き合ってあげたんだけど。」
平「な・・なんで俺に?」
沖「僕も、名前ちゃんが勉強のお礼に何か買ってもらうならともかく、どうして平助君に何かあげるのって聞いたら、いつも元気もらうからって。もう笑っちゃうよね。」
名字が・・俺から元気をもらってる?
ってかそれより・・いつも俺の話してるって・・。
沖「ねえ平助君。」
平「・・・。」
パニックになっている俺に総司が睨みつけるように言った。
沖「あんまり悲しませるようなことしたら、無理やりにでも僕がもらうけど。」
平「・・・断る!!!!!」
そう叫んで俺は教室に走り出した。
沖「・・・はぁ。似合わないことしたなぁ。」
総司の呟きは誰にも聞こえなかった。
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