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いつになっても唇に何かが触れる感触はない。
ゆっくりと目を開けると悲しそうな、苦しそうな顔をした総司君がいた。



沖「・・・名前ちゃん。」


 「総司君?」



沖「嫌だった?」


 「え?」


沖「思い切り目つぶってるし、困ったような顔してたから・・。」


 「いや・・その・・。」


沖「さっきも、平助君や左之さんに相談したかったんじゃないの?僕のこと。」


 「なんで・・?」



沖「僕、君に嫌われるようなことしちゃったかな?言ってくれればなおすようにするから、嫌いにならないでほし・・。」



 「総司君!!!」



どうしよう。
私がちゃんと言わなかったから。
総司君に嫌な思いさせてた。


 「嫌いなわけないよ!そうじゃなくて・・。」



沖「?」



 「初めてだから・・。」


沖「え?」



総司君の顔が見れなくて、下を向いてしまう。



 「私今まで付き合ったことなくて。その、全部どうしていいかわからなくて、恥ずかしくなっちゃって。平助君や原田さんにはそのことを相談したくて。どういう子が好きかなとか、どうされたら嬉しいかなとか。」



沖「名前ちゃん・・。」



 「ごめんね?今も・・キスしたことなくて、ただ待ってるだけでいいのかなとか考えちゃったら多分変な顔になってたんだと思う。」



沖「そうだったの・・。」



ほっとしたような顔で微笑む総司君に胸がきゅんとして。
そしてこんな私を受け入れてくれたことに泣きそうになった。



 「だから・・ごめんね・・?慣れてないから、変なことしちゃうかもしれないけど、私の方こそ・・嫌いにならな・いで・・。」



涙がでてしまった。


沖「名前ちゃん?!」


総司君が目元を手で拭ってくれる。
そしてそのまま抱きしめられた。




沖「どうして嫌いになるの!?」


 「だって・・面倒じゃない?もう社会人なのにこんなの・・。」


沖「面倒なわけないでしょ??」


 「良かった・・。」



沖「初めてだったのにいきなりごめんね?」



 「ううん、私がちゃんと言わなかったから。」



沖「これからは何でも言ってほしいな。」


 「うん。」


沖「でも僕が初めての彼氏なんてすごい嬉しい。」


 「本当??」


沖「うん!手をつなぐのもこうして抱きしめるのも僕が初めてなんでしょ?」



 「うん・・。」


沖「じゃあキスも、それ以上も。二人で過ごす朝も夜も、二人きりの旅行も。何もかも。僕が全部初めてをもらうね?」



そうか。
これからする全てのことが。
私にとって初めてのことで。
でもその全てを大好きな人と過ごすことができるならそれはとても素敵なことだ。



ゆっくりと体が離れて、総司君が私を覗きこむ。翡翠色の目に赤くなった私がうつっていた。



沖「・・キスしてもいい?」



 「あの・・私どうすれば・・。」


沖「目つぶってて。」



ゆっくりと目を閉じる。
そうか。
これからは総司君に聞けばいいんだ。
そうしたらきっと優しくこたえてくれるから。



唇にあたたかいものが触れて。
体が熱くなって。
でも心はそれ以上にあったかくて。
私は大好きな人に抱きついた。



総司君。
これからの私の全てを。
全部全部捧げます。


だからずっと傍にいてね。





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