付き合いだした日は。
一週間前、仕事が終わった後のこと。
駅までの道を歩いているときに告白されて。
頷いて、総司君が笑って。
手を繋いで一緒に歩いた。
それだけでドキドキしてしまって。
その日は駅でバイバイした。
次の日はお休みで、用事があったから会えなかったけど、夜はずっと電話して。
今も毎日寝る前には電話をしている。
でもまだ一週間。
そして恋愛経験のない私は。
さっきみたいなことがあると慌てて逃げてしまって。
こんなことじゃ嫌われちゃうよね?
どうしよう・・。
原「おーい、名前。名前??おーい。」
「は!はい!」
突然肩を叩かれて驚いてしまう。
振り向くと隣の部署の原田さんが立っていた。
私が慌てていることがおもしろかったのか笑いながらぽんぽんと頭を撫でてくれた。
原「落ち着けって。別に怒りに来たわけじゃねえよ。」
「すみません・・ぼーっとして。」
原「明日の会議の資料なんだけどよ、そっちの部署のデータをかりたいんだ。」
「あ、はい。それは資料室ですね。とってきます!!!」
原「俺も行く。量多いだろ?」
「ありがとうございます。」
原田さんと資料室へ向かった。
窓のない部屋は暗く、電気をつけるとたくさんのファイルが目に入った。
「えっと・・あ、これです。」
棚の上にある資料に手を伸ばす。
後少し・・で届かない!!
ひょいっと後ろから手が伸びて、ファイルは原田さんの手の中に収まった。
原「無理すんなって。やっぱりついてきて正解だな。」
「あはは・・すみません。」
原「わざわざすまなかったな。」
「いえいえ。」
あ。
そうだ。
原田さんってすっごくもてる!
聞いてみようかな・・。
「あの、原田さん!!!」
原「ん?」
「男の人って・・どんな女の人が好きですか!?!?何してもらうと嬉しいですか!?」
原「・・・は?」
矢継ぎ早に質問しようとする私を原田さんは宥めてくれた。
資料室に置いてあった椅子に座るとゆっくり話を聞いてくれる。
原「えーっとつまり、お前は初めて彼氏ができて、どうしていいかわからないってことか?」
「はい・・。あの、お恥ずかしいのですが手をつなぐだけで恥ずかしいんです。」
原「いまどき中学生でも繋いでるぞ。」
「う・・・。」
原「でも、そんだけ純粋なのも悪くねえな。男としては。」
「そうですか?面倒じゃないですか?」
原「それを面倒っていうような男はやめとけ。良い男じゃねえ。」
なるほど。
そうなんだ。
原「本当に好きな女だったら大切にするはずだし、全部初めてっていうのも悪い気はしないぜ?自分色に染められるからなあ。」
「じ・・自分色!?」
染められる!?
な・・なんか怖い。
原「そんな怖がるなって。ま、総司はそれぐらい気にしねえから安心しろ。」
「はい・・・。ってなんで知ってるんですか!!?」
原「ん?本人が言ってたぞ。付き合い始めたので手ださないでくださーいって。」
総司君・・。
まさか会社の人みんな知ってるってことないよね??
原「さて、そろそろ戻らねえと厄介なのが来るぞ?」
「え?」
――バタン
ドアが開くと眉間に皺をよせた総司君が立っていた。
沖「何してるんですか、二人で。」
「総司君。」
原「別に。資料探してもらってただけだぜ?」
総司君に原田さんは涼しげな顔で言う。
原「愛されてるから自信もて。心配なことは本人に全部言っちまいな。」
私の耳元で小さく言うとありがとなと言って部屋を出ていった。
原田さんが出ていってしまうと総司君は真っすぐ私に向かってきて手を掴んだ。
沖「大丈夫?何もされてない??」
原田さんと二人で何かあるわけないのに。
総司君は本当に心配しているみたいだった。
「大丈夫だよ、ちょっと話してただけだから。」
沖「話?」
「うん。」
沖「仕事中に二人っきりで話してるなんて悪い子だね。」
「え?」
ぐいっと引っ張られ、気がつくと後ろが壁。
目の前には総司君。
私の顔を挟み込むように手をつくと総司君との距離は数センチ。
こ・・これは・・。
「あの・・総司君?///」
沖「ん?」
「ち・・近い・・///」
沖「うん。」
ゆっくりと総司君との距離が縮まって。
キスしちゃう?
え・・どうしよう。
キスってどうするの?
目つぶってればいいの?
何もしなくていいの?
息は?とめるの?とめないの?
ど・・どうしよ・・!?
何もすることができずぎゅっと目をつぶった。
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