小さい頃から僕は名前が好きで。
名前も僕のことを好きだと言ってくれていた。
だけどお互い高校生になってからは。
そんなこと言わなくなったし、確かめてもいない。
小さい頃の約束なんて自然消滅がお約束でしょ?
僕の気持ちは、消滅できなかったみたいだけど。
「総司〜!教科書ありがとうね!」
放課後、名前は教科書を返しに教室に入ってきた。
沖「もう忘れちゃだめだよ。」
「うん。ごめんごめん。あ、お礼に奢るからさ、アイス食べいこ!」
目の前で手を合わせて謝ってくるとか。
その後僕のシャツの裾を掴んで引っ張るとか。
わざとじゃないんだよね、本当に。
いちいち可愛いんだけど。
沖「・・・名前が食べたいだけでしょ。」
「ばれたか。」
あははと頭をかいて笑うのも。
沖「・・・わざとなの?」
「何が?」
名前の手首を掴んで教室を出た。
何人かちらちらこっちを見てくる。
まあ手を繋いでいるとまではいかないけれど、似たようなものだし?
こうでもしておけば自信のない奴は手をだしてこないでしょ。
「総司・・?」
目を丸くしてこっちを見てくる名前。
少しだけ頬が赤い。
もしかして。
少しは意識してくれてるっていうの?
「そ・・そんなにあわてなくてもアイスは逃げないからね!!!ってかもう少しゆっくり!私と総司じゃ歩幅が違うから!歩幅が!!」
・・・・・・僕が馬鹿でした。
沖「逃げるんだよ。アイスは。ほら急ぐよ。」
「えぇーーー!?な・・なんで〜〜〜!」
最後はほとんど走るようにアイスクリーム屋に飛び込んで。
ぜえぜえと息をきらしている名前を見て、少しだけ荒れていた心が落ち着いた。
まあ、僕Sだし。
「はあ・・はあ・・ひどいよ総司。」
沖「何が。」
「もう、アイス奢ってよね!」
沖「・・話かわってない?僕が奢ってもらうんじゃなかった??」
「私、チョコミントと、抹茶とー。」
沖「・・・・ダブルにしておきなよ、太るから。」
「!!!!」
太るってワードに弱いよね、女の子は。
名前にもあてはまるようで衝撃をうけたようにかたまっている。
沖「・・・まあ明日からにしたら。ダイエットは。」
「そうする!」
立ち直りがはやいなぁ・・。
注文したアイスを定員さんが笑顔で僕達に渡してくれると名前は開いていた席に荷物を置いて座った。
僕も向かい側に座りアイスを食べ始める。
「総司〜総司のストロベリー一口食べたい。」
いいよって言う前にもう名前のスプーンが僕のアイスをさらっていった。
ちょっと、誘拐事件なんだけど。
「おいしー!!!」
こういうところも小さい時からほんと変わってない。
その笑顔につられてつい頬がゆるんでしまった。
「はい、じゃあ私のもあげる。」
そう言って名前はチョコミントをスプーンにすくうと僕の目の前に突き出してきた。
沖「・・・。」
「総司?食べないの?」
これってさ。
あーんってやつだよね。
さらにいえばさ。
間接キスなんじゃないの?
そういうことにためらいはないわけ?
僕が動かないのが不思議なのか、名前は空いた手で僕の頬をつついてきた。
沖「っ・・//」
「総司?」
沖「食べるよ。」
ぱくりと溶けかかったアイスを口に入れた。
腹たつなあ。
こういうことが。
恥ずかしいとか。
たまらないとか。
嬉しいとか。
愛しいとか。
こんなに思っているのは僕だけなのかと思うと。
いつも気にしているのが僕だけなのかと思うと。
沖「・・はい、名前。」
スプーンにバニラアイスをのせて名前の口元へ持っていく。
「わーい!」
名前はそれを食べようと口を近づける。
彼女の口に入る前に僕は自分のほうへ戻して食べてやった。
「ああ!総司ひどい!」
何がひどいの。
僕のアイスでしょ。
これぐらい。
何もひどくないでしょ。
だけど。
やっぱり食べさせてあげて。
間接キスするのも良かったなとか。
そんな考えがよぎった自分に少しへこんだ。
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