デートは一度だけした。
それまでも二人で出かけることなんてよくあったけれど。
付き合いだしてからのデートは一度だけ。
私が前から見たかった映画を見て。
ご飯を食べて。
ちゃんと私の気持ちも伝えて。
手を繋いで帰った。
ドキドキしてたのは私だけだったのかな?
総司からしたら遊びで。
他の子達と同じだったのかな?
一昨日。
大学で他の女の子とキスをしている総司を見た。
女の子からしていたけど、拒む様子もなくて。
微笑んでいた。
そして昨日。
私は総司に聞いて。
総司を叩いて。
そして彼は私の前からいなくなった。
「あんた、名字名前さん?」
「え?はい。」
講義も終わって帰ろうとキャンパス内を歩いていた時だった。
振り向くと綺麗な顔立ちをした男の人が立っている。四年生ぐらいだろうか?
「いきなりすまねえな。俺は土方だ。総司の知り合いで・・。」
「総司の?」
私と土方さんは学食と併設しているカフェに移動した。
土「総司と付き合ってるんだろ?」
「え?いや・・あの・・。」
土「あいつはよくわかんねえところもあるだろうが、悪い奴じゃねえ。これからもよろしく頼む。」
「あの、土方さん。」
総司から聞いてないのかな?
もう別れたってこと。
土「あいつの周り、女が多いだろ?」
「はい。」
土「あいつは小さい頃両親を亡くしてな。たった一人の姉貴とも離れて暮らさなきゃいけなかった。」
「え?」
そんなこと聞いてなかった。
そういえば総司の家族の話って一度もしたことがない。
土「親戚にひきとられたけどあまりいい扱いされてなかったみたいだな。高校で寮生活になって俺や、あいつが慕っている人と一緒になって少しはマシになってはきたんだが・・。」
そういえばそれは聞いたことがある。
高校は寮だったけどとても優しくて尊敬する先輩に出会えたって。
土方さんもその一人だったのかな?
土「だけど女関係だけはだめだった。あいつは来る者拒まず、去る者追わずで俺達も何度も注意したんだが・・。」
「そうだったんですか・・。」
土「多分、愛情ってやつがよくわかんねえんだな。自分に好意をよせてくれる奴は受け入れちまう。だけど自分はどう愛せばいいのかわからねえもんだから・・変な女ばかりよってくるようになっちまった。」
「それって・・。」
つまりは軽い関係というか。
本当に総司のことを好きできてくれる人がいなくなっちゃったってこと?
土「だけどそれでも・・受け入れちまうんだ。多分人一倍あいつは愛情が欲しいんだろうな。偽物ってわかってるだろうに。」
「・・・。」
知らなかった。
そんなこと。
私本当は総司のこと、何一つ知らなかった。
土「だけど、あいつがあんたのことを話してる時、いつもと違ったんだ。」
「え?」
土「本人に自覚があるかは知らねえが。だから俺は大丈夫だと思ったんだ。実際あんたに会って、今までの変な女とは違うのもわかったし。」
「いや・・まだ会ったばかりじゃないですか。」
土「少し話せばわかんだよ。それにあんた男慣れしてそうにもないしな。」
「失礼な人ですね。」
土「ははっ悪かったよ。」
初めて土方さんが笑った。
最初怖そうなお兄さんだったけど本当に総司のこと大事に思ってるんだ。
土「おっと・・そろそろ研究室戻らねえと。じゃあありがとな。総司によろしく言ってくれ。」
「あ!あの土方さん!!!」
手をひらひらさせながら土方さんは行ってしまった。
別れたって言えなかった・・・。
「どうしよ。・・まあいいか。」
きっと総司から話を聞くはずだ。
そうしたら。
完全に、私達は。
過去のものになる。
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