顔を赤くして頷いた顔。
どこか上の空でケーキを食べていた横顔。
そのせいでまたクリームを口の周りにつけていた顔。
「総司〜??」
声がして、意識を戻すと目の前には最近話すようになった女の子がいた。
沖「・・なに?」
「何って、話しかけても返事しないからさ。ね、どこ行く??」
メールで呼びだされて来てみれば。
女の子は彼氏とケンカしたとかで散々彼氏の悪口を言いながら食事をし、今は外に出て少し歩いていたところだった。
「総司の家でもいい?」
沖「うん。」
「それにしても痛そうだね、ほっぺた。」
沖「そんなことないよ。」
「珍しいね、総司がそんなことされるなんて。良い子だまして本気にさせちゃったんでしょー。悪い奴。」
沖「・・そうかもね。」
ゲラゲラ下品に笑いながらその子は真っすぐと僕の家へ向かっていった。
どうして名前の顔が浮かんだんだろう。
その後、女の子と一緒にいてもキスをしても。
何していてもちらちらと名前の顔が浮かんだ。
「総司、好きだよ。」
耳元でささやかれて、自ら服を脱ぎ始める女の子を、まるでテレビでも見ているように見つめる。
渇く。
ずっと何かが足りない。
ずっとずっと昔から。
何かが足りなくて。
だけど好きと言われたら少し満たされて。
「総司・・好き。」
キスをしながらそう呟く女の子に触れた。
いつもなら満たされるのに。
なんで足りない?
なんで?
『総司のこと・・好きだよ。』
付き合いだしてから三日後。
初めてのデートで。
顔を真っ赤にしながら名前は言った。
でもすぐに視線そらしちゃって。
なんだかじわりとあたたかくなった。
よくわからないけど。
そんな風になったのは初めてで。
映画を見て、手を繋いで帰った。
沖「・・キス・・。」
「え?キスしてほしーの?」
服も着ないままペットボトルのお茶を飲んでいる女の子が僕の声に気がついたらしい。
すたすたと近づいてきてちゅっと音をたててキスをしてきた。
「じゃあね、総司〜。彼氏から連絡きたし、帰るわ。」
沖「・・ばいばい。」
バタバタを服を着て荷物を持つと彼女は部屋を出ていった。
僕は座ったまま。
沖「キス・・もしてない。」
そう。
名前とはキスすらしてなかった。
こんなことは初めてなんじゃない?
いつもたわいもないことを話して。
思い切り笑って。
真面目に将来の話なんてしたりして。
ああ。
だめだ。
渇いてしょうがない。
どうしたら満たされる?
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