沖「何、その顔・・。」
「え?」
沖「なんで泣きそうな顔するの?」
泣きそうな顔をしてるの?私。
思わず手を顔の方へ持っていこうとした時。
その手を掴まれた。
「え!?あの・・。」
ぐいっと引っ張られると沖田さんは私を広間から連れてどんどん廊下を歩いていく。
「沖田さん!?」
歩いていった先は沖田さんの部屋。
乱暴に襖の閉まった音を聞き、土方さんに怒られないかななんて頭の片隅に思った。
沖「ねえ、なんで泣きそうなの?」
「えっと・・。」
沖「何。」
「沖田さん、何でそんな怖い顔してるんですか・・。」
いつも笑ってるのに。
今は沖田さんが怖い。
いらいらしてるのがストレートに伝わってくるし。
だけど理由がわからない。
沖「君、一君のこと好きなの?」
「え?」
いきなり質問されて頭が真っ白になる。
なんで斎藤さん??
沖「いつも僕が何かしようとすると一君の後ろに隠れるよね。」
だってそれは。
斎藤さんならうまく沖田さんを窘めてくれるから。それだけの理由。
沖「それとも左之さん?さっきも一番にお酌してたけど。」
見てたんですか!?
いや、近くにいただけで・・。
沖「それとも新八さん?平助君?土方さんとか言わないよね?」
「あ・・あの・・あの・・。」
がしっと両肩を掴まれてて身動きがとれない。
まだ沖田さんの表情は怒っててやっぱり怖くて。
でもその表情もぼやっと歪んでいく。
沖「名前ちゃん・・?」
ぽろっと一粒頬に落ちて。
また沖田さんがはっきり見えて。
だけどすぐにぼやけて。
一度でた涙はとめどなく零れおちていった。
沖「名前ちゃん!?」
「な・・なんでそんなこと言うんですか・・沖田さん怖い。いつも笑ってるのになんで・・。私何かしました?」
沖「いや、何かって・・。」
「皆さんのことは好きですけど・・そんな・・ふうに思ったこと・・ないです・・。」
ごしごしと拭っても拭っても涙が止まらない。
どうして沖田さんを怒らせたのかがわからない。
笑ってほしいのに。
いつもみたいにいてほしいのに。
好きなのに。
沖「ごめんね?」
そっと、肩にあった手が背中にまわり、私は沖田さんの腕の中にいた。
驚いてビクッとしてしまうとためらいがちに手が一瞬離れたけど、すぐにぎゅっと強く抱きしめられる。
「沖田さん?」
沖「・・・・嫉妬したんだよ。みんなに。」
「嫉妬??」
沖「好きな子が、他の男に庇ってもらったり、お酌してたり、笑いあってるのを見て平気でいられると思う?」
「え?好き??」
好き??
好きっていいました??
だって、沖田さん。
今まで斬るよ、殺すよしか言わなかったじゃないですか!!!!
そんなので伝わるわけない!
沖「みんなも君のこと、特別に見てると思うけどね。・・・渡すつもりはないけれど。」
「あの・・えーっと。」
沖「僕のこと好き??名前ちゃん。」
「す・・!?」
沖「好きだよね?だって、さっき冷たいこと言ったら泣きそうな顔になってたんだから。」
ニヤッと意地悪な笑顔。
いつもの沖田さんに戻っていた。
沖「他のみんなに簡単に近づいちゃだめだよ。本当だったら二人で暮らしたいぐらいだけど。」
「二人!?」
ちょっと待って!
展開が早すぎてついていけない!!!
沖「もし、他の人となんかあったら。」
――殺しちゃうよ?
出会ったときと変わらない笑顔で沖田さんは私に死刑宣告をする。
だけどあの時と違うのは。
恐怖が一切ないこと。
だってこれは。
彼なりの愛情表現だから。
沖「あーあ、もう一層君のこと今すぐ殺しちゃいたいくらいだよ。そうしたら誰にも触れさせないですむのに。」
前言撤回。
変態です。
「や・・嫌です!死にたくないです!」
沖「えー?嫌なの?」
「だって・・沖田さんともう少し一緒にいたいです・・・///」
沖「/////ずるいよね。そういうところ。」
「え?」
気のせいかな?
沖田さんの顔が赤くなってる気がする。
と思っていたら。
ただでさえ近かった距離が今はもうゼロセンチ。
「んっ・・。」
ドキンと鼓動が脳まで響いて、キスしたことを理解した。
その唇は耳元に素早く移動して。
沖「・・・・・好きだよ。僕以外のこと、見ちゃだめだからね。」
甘い呪いを囁かれ。
私は目を閉じて頷いた。
終
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